京都大学 大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻、理学部 地球惑星科学系

MENUMENU

浅田祐馬さん(日本製鉄株式会社 技術開発本部)

地球惑星科学専攻での研究を通して

日本製鉄株式会社 技術開発本部 浅田祐馬
(2018年度地球惑星科学専攻修士課程修了)

地球惑星科学に興味を持った理由
決定的な出来事としては、探査機はやぶさが小惑星イトカワから地球へ帰還したと話題になったことです。宇宙から降ってくる隕石だけじゃ満足できずに、宇宙から岩石を直接持って帰ってこようとした、そして実際に成し遂げた研究者の好奇心と情熱に、高校生ながら感銘を受けました。
また、昔から化石だとか宇宙だとかにロマンを感じていました。小学生のときに、砂場の中にキラッと光る砂つぶを見つけたときや、お土産屋の石を見たときに、綺麗だと感じるとともに、どうして石というものはこんなバラバラな形や色をしているだろうと思ったりもしていました。今思えば、こういった数々の疑問が、私を地球惑星科学の世界へ誘ってくれたのだと思います。

大学・大学院での学生生活
京炎 そでふれ!彩京前線という創作踊りサークルに所属していました。これがまた濃いサークルで、全国のよさこい祭に参加するだけでなく、京都市内外のイベントで披露したり、小中高の体育の授業にお邪魔して踊りの指導をしたりしておりました。東北の方々を元気づけようと福島県や宮城県まで行ったこともありました。老若男女問わず、本当にたくさんの方と交流することができ、非常に充実した日々でした。

大学院での研究生活
太陽風による宇宙風化を再現しようと、鉱物表面へ水素イオンを照射する実験を行っておりました。宇宙風化というのは、ごく簡単に言ってしまえば、宇宙にある石が「日焼け」することです。人間も太陽からの紫外線によってダメージを受けるように、宇宙空間の石も、太陽から飛んでくる水素イオンやヘリウムイオン(これらを太陽風という)が打ち込まれたり、微隕石が衝突したりすることによってダメージを受けると考えられています。これが宇宙風化です。
小惑星探査機はやぶさによって持ち帰られた小惑星イトカワの表面粒子を分析した結果、イトカワ粒子表面にも宇宙風化の痕跡が見つかっていました。この原因が果たして太陽風によるものなのかを明らかにするために、宇宙空間で起きている鉱物への太陽風の照射、すなわち水素イオンの照射を実験で再現し、実際のイトカワ粒子と比較するという研究を行っておりました。
実験のために、JAXA宇宙科学研究所まで行っていました。向こうの方のご指導とご協力のもと、1週間から2週間泊まり込みで実験をして、実験後のサンプルを京都大学に持ち帰って解析し、また実験をしにJAXAに行くというサイクルを繰り返しておりました。京都大学の先生方やJAXAの研究者の方々との議論は、非常に勉強になり自身の成長につながりました。とりわけ高校生のときにテレビ越しに感じた研究者の好奇心と情熱、言うなれば「研究者魂」を身近で感じることが何度もあり、その度に唸らされておりました。大学院での研究を通して感じた、この「研究者魂」を少しでも自分のモノにしようと、現在は新たなフィールドで精進しております。

現在の職務
修士課程を修了し日本製鉄株式会社に就職しました。現在は千葉県にある研究所で自動車用鋼板の研究に携わっております。自動車の燃費向上に向けた車体の軽量化と衝突安全性能の両立に向けて、自動車部品に適用される鋼板を高強度化する必要があります。私が所属する部署では、材料の強度や変形能を高めるとともに、材料特性を活かした自動車部品の構造も検討することで、従来よりも優れた機能をもつ自動車用鋼板を開発しております。そのために、様々な分野出身の研究者が連携して日々研鑽を重ねております。


地球惑星科学専攻の経験で現在活かされていること
鉄の特性は、その組織と密接に関係しています。丈夫な鉄を作るには、ただ肉眼で見るだけでなく、よりミクロな視点から鉄表面の微細組織を明らかにし、そこに潜む物理現象を解明する必要があります。このアプローチは、大学院時代の研究と類似しています。鉱物が様々な形や色をしているのも、小惑星イトカワの表面が宇宙風化しているのも、そこには必ず「ミクロな世界」が広がっています。本専攻で得た理学的な鋭い目線と、先生方から学んだ「研究者魂」は、現在の私の大きな支えになっています。

(執筆日:2019年12月4日)

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