京都大学 大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻、理学部 地球惑星科学系

MENUMENU

羽地俊樹さん(産業技術総合研究所 地質調査研究センター)

地球惑星科学専攻での研究を通して

産業技術総合研究所 地質調査研究センター 羽地俊樹
(2019年度地球惑星科学専攻博士課程修了)


写真1:地質調査装備(兵庫県香美町,猿尾滝前)

地球惑星科学専攻に興味を持った理由ときっかけ
私が地球科学に興味を持ったきっかけは小学生のころから恐竜が好きだったことです.小学生の頃の私の楽しみは,学研の図鑑に載っている恐竜の名前や特徴を覚え,その姿を自由帳に模写をすることでした.この頃は将来の夢として,恐竜の研究者になることを掲げていた記憶があります.しかし,中学校で進学校に進んでからは部活と勉強に時間のほとんどを費やしたことでそのような興味は忘れ,漠然と研究者への憧れのみが残っていました.実際,京大理学部に進学を決めた時点では,受験で得意だった物理もしくは化学を専攻する心積もりでした.
いざ入学してみると,京大理学部の同級生には勉強すきすき君がたくさんおり,私のような一般人では全くもって歯が立ちませんでした.けれども,入ったからには卒業せねばなりません.そこで私が目を付けたのが地球惑星科学専攻,その中でも地質学鉱物学教室でした.というのも,私の周りには地質のすきすき君はいなかったからです.恐竜好きだったのもあり地質への興味は元々あったため,ここなら頑張って勉強すれば落ちこぼれにはならずにすむかも!と考え地質学を学ぶことを決めました.

系登録~研究室の選択
3年生のカリキュラムには多くの実験や野外巡検が設定されていて非常に楽しく過ごすことができました.半年かけて行った実験の成果報告会に寝坊したのも良い思い出です.系登録当初は幼い頃の興味が再燃し,化石の研究室を進路として考えていました.しかし,3年次の授業はどれも興味深く,研究室選びは難航しました.結局私は化石を専門とする研究室には進まず,堆積盆発達史や構造地質を専門とする研究室に進みました.この選択には,学外の地質系アルバイトで知り合った他大学の先輩からのアドバイスが大きく影響しました.

大学での研究生活
研究室に所属してからは,日本海ができたころに日本列島で何が起こったかを調べることを研究テーマしました.このテーマに取り組むにあたって,私は地質調査を主な手法としました.地質調査とは,研究対象とする時代の地層が露出している山や海岸に訪れ,地層の観察からその成り立ちを調べる研究手法です.私自身が希望してそのような研究課題となったのですが,いざ初めてみるとこれが非常に堪えました.地質調査では基本的に単独で山中を調査します.埋立地育ちで自然散策もまともにしたことのない人間であった私には,そもそも山歩きをすること自体にかなりの精神的な疲労がありました.山中では危険な虫や野生生物(スズメバチ,マムシ,ツキノワグマなどなど)にしょっちゅう出くわし,そのたびに帰りたくなっていました.また調査を進めると自然には慣れたものの,今度は研究としての成果が出ないという悩みが出てきました.同級生が室内の研究で着実に成果を上げていく中,成果が上がるかわからない野外調査を継続することが大変つらかったです.しかし,調査を通して地域の方々とたくさんの繋がりを持つことができ,それが大きな心の支えとなりました.地域との交流を通じて,研究成果を新聞記事や一般公演という形で発信することもでき,良い経験をさせていただきました.
また指導者にも恵まれ,厳しくも正しい指導を受けることができました.成果を出すために必要なことだけでなく,研究というものの考え方など研究者になるうえで重要な多くのこと指導してくださいました.このことの重要さは,研究者として就職して所属が変わった今だからこそより強く感じています.京大に在籍した間に指導者から求められたレベルの成果を達成できたとは言い難く,その点が心残りです.今後,指導学生だと誇っていただけるような成果を上げることが,私の今の大きな目標のうちの1つです.


写真2:地質調査の様子

写真3:調査地域での一般公演(第26回 養父市ふるさと歴史講演会)

現在の仕事
私は地球惑星科学専攻で博士学位を取得し,現在は産業技術総合研究所の地質調査総合センターで任期付き研究員として働いています.私の主な業務は地質図の作成です.地質図とは,地下の地層の分布・性状を示す地図で,地震防災や資源探索などに利用される国土の基礎情報です.学生時代に培った地質調査能力を活かして,業務として年間100日近くを野外で地層の観察に費やしています.地質調査総合センターには専門の異なるたくさんの野外地質研究者が所属しているため,多くの専門知識や観察方法を学ぶことができています.また先日,さらなる踏査能力の習得のために,ロープワークや登攀技術の研修を受ける機会もありました.このような活動を通して,京大地惑専攻の卒業生として胸を張れる地質研究者と成るべく,日々奮闘しています.


写真4:ロープワークと登攀技術の研修

写真5:野外調査の様子.写真右上から左下にかけての黒い層は,日本海ができた頃の溶岩.

最後に
こうして学生生活を振り返ると,私は周りの人々に支え・導かれてここまでの道を進んでこられたのだなと再認識することとなりました.研究では,大学前半の勉強とは全く異なる活動を自ら考えて進めなればならないので,優秀な京都大学の学生さんでも壁にぶつかる機会があると思います.そんな時は,ぜひ周りの方々に助言を求めてみてください.京大の先輩・先生方はやはり優秀で,その優秀さに臆してコミュニケーションを恐れてしまうかもしれません.しかし,そこで勇気を出して積極的に指導を乞うことが,京大地惑専攻を卒業し,その後も成果を上げていく秘訣なのではないかと思います.


写真6:野外調査の様子.成層構造のきれいな地層を数条の断層が切っている.

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