地球惑星科学専攻 地球科学輻合部特別講演会

日時: 2009年10月14日(水) 16:30 - 18:00
場所: 京都大学理学部6号館 201号室
題目: 付加体における堆積物の続成過程と固結後の小断層古応力解析
講演者: 橋本善孝 氏 (高知大)

講演要旨:
沈み込み帯に持ち込まれる堆積物は最初間隙率が70%以上で未固結です。沈み込むに
つれて物理的化学的に脱水し、かつセメンテーションなどにより次第に間隙率が減少
し岩石化します。このような岩石化プロセスを続成過程といいますが、沈み込み帯に
おける続成過程はよく理解されていません。続成過程は刻々と物性が変化するプロセ
スで、弾性的性質を獲得するプロセスでもあります。またこのような物性変化は付加
ウェッジの形状、地震発生帯の位置、流体移動特性、地震サイクルへの応答などに密
接に関わると考えられます。

付加体浅部から深部にかけてどのように間隙率が減少し、どのように物性が変化する
のかについての研究成果を紹介します。まず、非常に浅部の付加体堆積物IODP Nantro
SEIZE Expedition 315で得られた試料の物性変化について検討しました。グローバル
な堆積物の経験的な間隙率-弾性波速度の関係に比べて、今回の付加体堆積物はより
弾性波速度が速い傾向が得られました。これは堆積物の組成や他のロギングデータの
制約から考慮すると、間隙形状の異方性が原因ではないかと考えられ、付加体特有の
特徴と考えられます。さらに沈み込んでからの堆積物の物性変化として、四万十帯に
見られるメランジュの形成過程に注目します。メランジュ中の砂岩ブロックにはウェ
ブストラクチャーという破砕帯がしばしば観察されます。このウェブストラクチャー
は緑泥石やカルサイトなどのセメントが形成される前に発達しており、圧密破壊によ
る間隙率減少プロセスと捉えられると考えます。このことによって、砂岩層は選択的
にコンピーテント層となります。砂岩にのみ引っぱり割れ目が発達し、泥岩が流動的
であったと見られる産状がしばしば観察されることと整合的です。より深部で最終的
に泥岩も弾性的になり、メランジュの組織を切るように小断層が形成されます。高知
県白亜系四万十帯横波メランジュでは小断層の分布が海洋底層序に切られており、こ
のような小断層が底付け付加前に形成されていることを示しています。この小断層に
伴う鉱物脈中の流体包有物からも約200˚C/150MPaの温度圧力が得られており、その考
察と矛盾しません。この温度圧力条件までに、沈み込み帯の堆積物は続成過程を終了
させると考えられます。

この最終ステージの小断層を用いて多重逆解放による応力解析を行ったところ、メラ
ンジュ面構造を水平に戻したときに正断層的な応力と逆断層的な応力が得られました
。これは台湾集集地震断層の掘削コアから得た応力や、他の四万十帯から得られた応
力でも同様です。このような付加体に見られる複数の応力場をより積極的に解釈した
いと考えています。このような堆積物の続成過程と応力の変化がウェッジ形状に与え
る影響や地震サイクルとの対応などに関連づけられないか、と考えています。

問い合わせ先: 佐藤 活志