地球惑星科学専攻 地球科学輻合部特別講演会

日時: 2009年12月9日(水) 16:30 - 18:00
場所: 京都大学理学部6号館 201号室
題目: 堆積物に記録された地磁気エクスカーションの探索:環境磁気学の可能性
講演者: 林田明 氏 (同志社大学)

講演要旨:
古地磁気学の研究は地球磁場の成因や地球中心核のダイナミクスの理解を元来の目的
とするが、テクトニクスや層序学、環境変動などの分野においても重要な知見や鍵と
なる手法を生み出してきた。これはもちろん古地磁気学が関連分野に一方的な貢献を
するということではなく、異なる分野の相互の寄与や研究手法の統合によって推進さ
れたものである。そのような例として、白亜紀スーパークロンの発見と地球内部ダイ
ナミクスや中生代の地球環境に関する研究、気候変動のミランコヴィッチ説の検証と
それに続く地磁気極性タイムスケールの革新などを挙げることができる。

Brunhes クロン(78万年前から現在まで)の古地球磁場強度や地磁気エクスカーショ
ンについても、古海洋学や気候変動の課題とリンクした研究が進められている。地磁
気エクスカーションとは地球磁場の方位が通常の地磁気永年変化の範囲を越えて変化
する現象で、地心双極子を仮定して求めた磁極(仮想的地磁気極)の位置が中低緯度
に達した後、元の極性に復帰するものをいう。Brunhes クロンのエクスカーションの
うち最もよく研究されているものは1960年代にフランス中央高地の溶岩で発見された
Laschamp エクスカーションである。最近の^40 Ar/^39 Ar法や^238 U-^230 Th法の研
究によってその年代が約41,000年前であることが示されるとともに、大西洋の海底堆
積物の残留磁化の変動や古地球磁場強度の減少、さらにグリーンランドの氷床コアに
認められる^10 Beフラックスの増加との対応も明らかにされている。

一方、東アジアや太平洋では信頼できるエクスカーションの記録が少なく、そのグロ
ーバルな様相を明らかにするために更なる研究が必要となっている。地磁気エクスカ
ーションの研究が難しいことの背景には、短期間の地球磁場の変動を忠実に記録する
火山岩や堆積物が得難いこと、変形や擾乱のない試料の採取が容易ではないこと、そ
して Brunhesクロンの放射年代測定が難しいことなどの事情がある。今回のセミナー
では上記の困難を考慮しつつ、琵琶湖の湖底堆積物に残された地球磁場と気候変動の
記録、Laschampエクスカーションの探索について紹介する。

問い合わせ先: 竹村 恵二