地球惑星科学専攻 地球科学輻合部特別講演会

日時: 2010年1月20日(水) 16:30 - 18:00
場所: 京都大学理学部6号館 201号室
題目: 内部構造を持ったアスペリティによって生じる地震発生間隔・規模の変化およびすべり様式の多様性
講演者: 堀高峰 氏 (理学研究科連携併任准教授, 海洋研究開発機構)

講演要旨:
従来アスペリティというのは内部には構造を考えず、その周辺との摩擦特性の違いを
問題にしてきた。しかし最近になって、アスペリティの典型例と考えられてきた釜石
沖のM5弱の固有地震(規模も発生間隔もほぼ一定)のすべり域の内部で、M2~3の小地
震が繰り返し地震間に発生することがわかってきた。これらの地震は余震のように直
後に発生するのではなく、地震間の後半に主に発生する。もし地震間にアスペリティ
が完全に固着していれば、アスペリティ内部で部分的な破壊が起こることは考えにく
いことから、我々は次のような内部構造を持つアスペリティを考えた。M5弱の中地震
のアスペリティに相当する領域は、地震間に固着のはがれがゆっくり起きる。その内
部には、小地震のすべり域に相当する小さいアスペリティがあり、こちらは少しでも
すべりが生じると不安定になって地震を起こすと考える。さらに、このような摩擦特
性が強度そのものの大小ではなく、強度の低下に必要なすべり距離の大小に依存する
と仮定した。このような内部構造を持ったアスペリティを、岩石実験にもとづくすべ
り速度と状態に依存した摩擦則に従ってモデル化し、地震発生サイクルの数値シミュ
レーションを行った。その結果、中地震の規則的な繰り返しの後半に小地震が発生す
るとともに、それぞれの地震のモーメントやサイスミックカップリングもほぼ定量的
に再現された。またこのモデルから期待されることとして、小地震の時も中地震の時
も小さいアスペリティから破壊が始まり、ほぼ同じすべりになる。このため地震の始
まりの波形だけからは地震の規模が予測できないことになる。一方、地震間の固着状
態がそれぞれの地震前では変化し、中地震の前には固着がはがれることが期待される
。釜石沖ではそれを観測でとらえることは難しいが、このモデルをより規模の大きな
地震に適用した場合、規模の大きな地震の前には、その震源域の一部が固着していな
いことになる。つまり地震間のある時期に固着していない領域が、いずれ地震を起こ
す可能性があることになり、防災上重要な意味を持つことになる。

問い合わせ先: 久家 慶子