京都大学21世紀COEプログラム 活地球圏の変動解明 アジア・オセアニアから世界への発信

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多目的観測サイトの活動(別府):地溝帯における活構造 報告

竹村恵二・堤 浩之

 8月3日から5日まで,課題演習D3と関連した実習が多目的観測サイトの活動として実施された.京都からは堤 浩之ほか学生5名,別府では竹村が参加した.この実習は,活動的な火山・地熱地帯である別府地溝地域に展開する活構造の実態を,現地で観察・記載・考察するプログラムとして実施された.今回はじめての試みであり,最後のまとめ以外はすべて野外での実習として企画した.3日は朝9時からオリエンテーションを行い,別府の地球科学概要(火山・地熱・活構造等)を紹介した後,資料(配布済みのスケッチブック,地形図,地質図,空中写真)と観測器具(クリノメーター,ハンマー,ルーペ,ハンドレベル,スタッフ)を準備した.その後,現地実習を行う地域の空中写真判読を実施し,概略の断層位置等を地形図に記入した(写真1).別府湾北岸地域に広がる平坦な地形面は主に火砕流から構成されるが,その地形面には活断層地形が明瞭に認められる.空中写真で確認した活断層分布地点で,断層崖の比高を2人一組の簡易測量で測量した(写真2).平坦な地形面上での炎天下の作業は,照り返しの影響もありかなりハードな実習となった.その後,近くの海水浴場で昼食,休憩を取った後,別府湾北岸の切り立った崖の断面観察に向かった.ハーブ園の好意で,幸い崖のほぼ近くの崖上まで自動車を横付けでき,熱中症防止の水や氷等を海岸まで運ぶことができた.海岸の崖は,多彩な種類の岩石や堆積物(火砕流,海の堆積物,軽石層など)で構成され,学生達は自分たちで,午前中測量した活断層の断面をこの崖の中で探す作業等に没頭した(写真3).この日は晴天であったものの,海からの風がここちよく吹き抜け,崖から5m程度は影ができるスペースが連続しており,直射日光を受けての過酷な作業とならず,幸運であった.夕方,地球熱学研究施設にもどり,暑かった1日の実習が終わった.4日は,別府地熱地帯に展開するさまざまな地熱現象を観察しながら,関連する活構造の観察に費やされた.別府地溝の北部には,火山活動と関連したと考えられる小規模の正断層が観察される.その断層を含む崖の詳細な観察が昨日に続いて実施された(写真4).伽藍岳にみられる別府地熱地域の噴気地帯を遠めに観察した後,湯布院盆地の南を限る由布院断層の露頭を見学した.駐車位置から断層露出地点まで,やぶの中を通過するのは暑い中でもあり,学生にとって得がたい経験になったかもしれない.由布院断層露頭観察後,断層運動がいつ起こったかという重要な時刻を定義できる火山灰の観察を実施した.この崖には,阿蘇カルデラができたときの大爆発時(約9万年前)の火砕流から,九重火山の爆発時の火山灰,鹿児島の姶良カルデラからの火山灰,さらに南方海上のカルデラからの火山灰(7,300年前)が含まれており,約10万年前から現在までの時刻を刻む古文書を感じさせる場所であった(写真5).
 学生達とともに,夕方,別府の北部に広がる温泉・噴気地帯を見学し,2日間の疲れを温泉でいやして,2日目が終了した.3日目は,午前中をとおして2日間に観察・記載した多くの自分で獲得した情報をレポートにまとめる作業が実施された.この作業により,取得したデータの整理方法の基礎的な演習ができた.
 炎天下での2日間の演習であり,まだ初歩段階でもあり,困難な点や理解できにくい面もあったと思われるが,学生にとって,貴重な体験を得ることのできた演習であったことを期待している.

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写真1 実習の下調べ中(空中写真判読)の学生

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写真2 軒の井断層の地形測量

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写真3 断層が観察できる海岸の崖

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写真4 草原地帯での活断層調査実習

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写真5 現在までの10万年間の火山灰層が観察できる崖

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