京都大学21世紀COEプログラム 活地球圏の変動解明 アジア・オセアニアから世界への発信

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調査報告:スリランカ南東部、ペリヤ・カラプワ湖地域における津波堆積物

嶋本利彦・廣瀬丈洋・松本 弾(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)

 2004年12月26日のスマトラ沖大地震では、インド洋及び周辺地域で大津波による未曾有の大災害が発生した。私たち3名は、本年3月後半に約2週間、スリランカ・ペラデニヤ大学及びサウス・イースタン大学の研究者と共同で、スリランカ南東部における津波堆積物の調査をおこなった。調査の目的は、(1) 堆積物が保存されやすい湖底で今回の規模の津波がどのような堆積物を作ったかを調べること、および (2) 同様な堆積物を探して過去に津波が起こった時期を決めることであった。今回は時間と機材の制約で (2)は完了しなかったが、(1)については興味深い結果を得た。津波堆積物は、近年、「イベント堆積物」として世界各地で活発な研究がなされるようになったが、堆積環境下で大津波直後に津波堆積物を詳しく調べた研究は少ない。海岸付近に発達したラグーン湖は容易にアクセスが可能な堆積環境である。私たちがスリランカを選んだのは、同国・東海岸の沿って多数のラグーン湖が発達しているからである。ちなみに、今回スリランカ以上の大津波に襲われたスマトラとタイには、ラグーン湖はほとんど発達していない。

 スリランカは3波の津波に襲われたが、スリランカ南東部では第2波が地面から4〜6 m(海面から6〜8 m)の高さに達する大津波で、海岸から幅約500 m(場所によっては1 km)の範囲で悲劇的な被害を与えた。この津波によって、木・構造物・くぼ地など、水流の乱れるところで堆積物が削剥された。このような「洗掘」は津波が進入しやすい河口付近でとくに顕著で、洗掘によってまきあげられた堆積物はすぐに沈降して後方に津波堆積物を形成した(図1)。湖の深さは1 m前後で、津波堆積物はアクリルパイプを手で差し込んで採取することができた(図2)。津波堆積物の厚さは津波の進行方向に急速に薄くなり、幅1 km 足らずの範囲に連続的に分布している(図3)。調査地域は非常に平坦で、顕著な津波の戻りの流れはなかった。図3のような層厚分布をもつ津波堆積物は、戻り波のない1回の襲来波によって形成されたと考えられる。洗掘は至る所で認められるが、連続性のよい津波堆積物は洗掘の特に著しい場所に限られている。
 K. Siehのグループは、1833年のスマトラ大地震(M9クラス、今回の震源域の南西延長部)の再来周期を約265年と見積もっている。しかし、R. Bilhamらによると、今回のスマトラ沖大地震の震源域における歴史地震はM8クラスで、今回の地震よりもひとまわり小さい。もしかしたら、今回の震源域全体が一気に破壊するような超巨大地震は稀なのかもしれない。今年3月28日にスマトラ沖で起こったM8.7の地震では、スリランカに大津波はこなかった。したがって、スリランカの過去の津波堆積物から、インド洋における巨大津波の再来周期に関する貴重な情報が得られる可能性がある。今後の大きな課題である。

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図1.顕著な削剥域であったペリヤ・カラプワ湖北東部の橋の近くから、津波堆積物が分布する場所を西北西方向にみたところ。左上の椰子の木の下半部は潮水で葉がかれており、津波から地面から約5 mであったことがわかる。

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図2.(a) 津波堆積物の採取風景と (b)津波堆積物。堆積物は平均粒径が0.5 mm 程度の砂で、やや重くて黒色のイルメナイトと通常の砂が層をなしている。この砂質津波堆積物は水中では液状にふるまい、パイプを堆積物に数10 cm以上差し込むと、壁面との摩擦が大きくなって、それ以上パイプを差し込むことができなくなる。パイプを単純に深く差し込む方法では、湖底堆積物の数m規模のコアを採取することは難しい。

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図3.津波堆積物の厚さを削剥域のほぼ中央に位置した北東部および南西部の橋からの距離に対してプロットした図。陸上堆積物と湖底堆積物はほぼ同じ傾向の層厚変化を示す。過去の津波堆積物を探す際には、津波堆積物の分布が限定されていることに注意する必要がある。

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