京都大学21世紀COEプログラム 活地球圏の変動解明 アジア・オセアニアから世界への発信

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インドネシア・スカブミ鍾乳洞調査報告

渡邊裕美子(KAGI-COE研究員)、山田誠(岡山理科大学)

 今回のスカブミ鍾乳洞調査隊は、鍾乳石採取・鍾乳洞内外の地形地質調査等を目的とした石隊4名と、鍾乳洞内Drip waterおよび関連試料水の採取を目的とした水隊5名で編成された。両隊は調査行程の大半を同行し、協力して作業を行った。以下、各隊の調査記録部分を抜粋してレポートする。

=== 1.石隊調査レポート ===
参加メンバー:竹村恵二・田上高広・松岡廣繁・渡邊裕美子(京大)

5/31
19時にジャカルタ空港に到着し、小型バスにてバンドンの宿泊先まで移動した。バンドンまでは高速道路を利用し、3時間ほどの道のりであった。
6/1
10時に共同研究者のいるバンドン工科大学(ITB)を訪問し、事前の準備と打ち合わせを行った。夕刻、バンドンの宿泊先に戻り、調査方法を最終確認した。
6/2
9時にバンドンの宿泊先を出発し、ITBのBudi Brahmantyo、Khoiril Anwarと共に、2台のワゴン車で現地入りした。バンドンからスカブミまでは全て舗装路であり、片道約3時間で到着した。そこから現場までは約1時間半を要し、Buniayu cave群に到着したのは15時頃であった。前日の雨の影響でCiawitali Caveは増水して入ることが困難と言うことだったので、メンバー全員でガイドと共に観光洞窟であるCipicung Caveに入り、調査を行った。雨期に増水した際の水位線の確認や石筍の有無について観察した。夕刻、調査を終え、スカブミの宿泊先まで移動した。
6/3
8時にスカブミの宿泊先を出発し、9時半にBuniayuに到着した。幸運にも前日に雨が降らず、Ciawitali Caveに入ることが可能であった。ガイドとBudi Brahmantyo (ITB)と共にCiawitali Caveに入り、終日調査を行った。この日の調査で、7つの石筍と2つのつらら石を採取することができた。また、竹村氏は午後からBuniayu周辺のルートマップの作成を担当した。夕刻、調査を終え、スカブミの宿泊先まで移動した。
6/4
前日同様にスカブミ宿泊先を出発し、14時まで現地調査を行った。竹村氏は前日に続いて周辺のルートマップの作成と植生の観察を行った。松岡氏はCiawitali Caveの測量と、洞内の石灰岩や安山岩転石の採取を行った。田上氏と渡邊はCipicung Caveに入り、水採取位置の確認と、洞内の石灰岩や安山岩転石などの採取を行った。2つの洞内で転石試料は13個回収することができた。14時からスカブミ経由でバンドンの宿泊先まで移動した。
6/5
“インドネシアにおける古気候変動”に関するワークショップが開催された。
6/6
  竹村氏と松岡氏は日本に帰国。田上氏と渡邊は、採取した試料の整理や郵送などの手続きを行った。
6/7
  田上氏と渡邊、日本に帰国。

  今回の調査行では、石筍7個、つらら石2個、転石など13個を採取することができた。岩石試料は全て日本に持ち帰り、ウラン放射非平衡分析や安定同位体の分析等を行い、石筍の成長史を解明する予定である。
(渡邊裕美子)

=== 2.水隊調査レポート ===
参加メンバー:大沢信二(京大)・北岡豪一・山田誠・小野達志・二宮渉(岡山理大)

6/1
ITBのKAGI officeで行った調査隊全体ミーティング(写真4)後に,手製の雨水採取器を地球物理学・気象学教室の入った建物前の気象観測用敷地内に設置した(写真5).設置直後に雨が降り始めたため,別途雨を少量採取し,pHと電気伝導度を測定した.さらに,短時間に多量の雨が降ってきたので同位体(トリチウム・δD・δ18O)測定用試料として雨樋から流れ落ちる水を採取した.
夕刻にホテルに戻り,調査の手順や器材のチェックを行った.
6/2
午前中からスカブミへ移動.スカブミ到着後,調査隊全員で第一洞(Chipicung Cave)に入洞し,水隊は洞内3ヶ所に手製のDrip water採取器を設置した(写真6〜8).
6/3
午前中に,水隊全員とITBのAnwar氏でChipicung Caveへ入洞し,前日設置したDrip water採取容器の回収,および,He同位体測定用試料水の採取に向かった.設置した採取容器は全て倒れることなくDrip waterで満たされた状態で回収に成功.Drip water採取地点3でHe同位体測定用試料水を手製の3方活栓付き注射器を用いて採取した(写真9).洞外に出て,注射器に採取したDrip waterを銅製試料水コンテナーに移し密封した.
午後には,第二洞(Ciawitali Cave)調査班(大沢・山田・小野)と周辺湧水調査班(北岡・二宮)の2班に分かれて試料水採取を行った.Ciawitali Cave調査班には石隊の松岡・田上・渡邊の3氏が,周辺湧水調査班にはITBのBudi氏がそれぞれ同行した.Ciawitali Cave調査班は,Drip water採取器を洞最奥部に設置し,周辺湧水班は,鍾乳洞周辺の湧泉2箇所で湧水試料を採取した.
6/4
水隊は,この日も,Ciawitali Cave調査班(大沢・北岡・小野・二宮)と,周辺湧水調査班(山田)の2班に別れて作業を行った。Ciawitali Cave調査班には石隊の松岡氏,周辺湧水調査班にはBudi,Anwarの両氏が同行した.Ciawitali Cave調査班は,満杯になったDrip water採取容器を無事回収し,He同位体測定用試料水の採取も行った.周辺湧水調査班は,鍾乳洞周辺の新たな湧泉で湧水試料を採取した.
ほぼ予定していた試料水の採取を終え,午後にスカブミを後にし,夕刻にバンドンへ帰還した.
6/5
午前中に,6/1に気象観測用敷地内に設置した雨水採取器を回収し,スカブミ鍾乳洞および周辺湧水から採取してきた試料水の梱包と調査道具の整理を行った.

 今回の調査旅行で採取した試料水は,鍾乳洞内Drip water:4,鍾乳洞周辺湧水:3,雨水(バンドン市内):1である.試料水は全て日本に持ち帰り,一般水質分析と安定同位体測定(δDwater,δ18Owater,δ13CDIC)等を行い,Drip water試料に対しては,トリチウム-3H年代測定も実施し,降水が地中に浸透してから鍾乳洞天井にDrip waterとして流出するまでに要する時間(traveling time)を導出する予定である.
(山田誠)

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写真1:Caveへ向かう調査隊

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写真2:洞内の岩石採取の様子

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写真3:調査隊集合写真

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写真4:調査隊全体ミーティング。赤○内は手製の雨水採取器

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写真5:気象観測用敷地と設置した手製雨水採取器(赤○内)

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写真6:Drip water採取器の設置(Point1)

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写真7:Drip water採取器の設置(Point2).つらら石から滴り落ちるDrip waterを集めるロート,集めたDrip waterを採取容器(ペットボトル)に導き入れるホースより成る.

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写真8:Drip water採取器の設置(Point3)

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写真9:He同位体測定用試料水の採取(Point3).青○内は手製の3方活栓付き注射器.矢印はDrip waterが滴り落ちるつらら石の位置で,導管を介して空気を遮断しながらDrip waterを注射器に導き入れる.

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