京都大学21世紀COEプログラム 活地球圏の変動解明 アジア・オセアニアから世界への発信

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インドネシア・中部ジャワ鍾乳洞調査報告

渡邊裕美子(KAGI-COE研究員)、山田誠(岡山理科大学)

本研究では、アジア赤道域の過去のモンスーン気候・気象変動を、局所的な降水量の指標となる地下水中の酸素同位体変動から読み解くことを目的に、インドネシア国内に数多く分布する鍾乳洞を調査し、石筍試料の組織的な採取と分析をすることを目指している。今回の調査は、2006年3月と6月に行われた2回の西ジャワ・スカブミ地域の調査に続く、第3回目のインドネシア鍾乳洞調査行である。今回の研究対象地域はジャワ島中部のケブメン地域で、鍾乳石採取・鍾乳洞内外の地形地質調査、洞内Drip water試料の採取を行った。調査は2006年9月3日に関西空港(または福岡空港)より出発し、9月21日に帰国する、合計18日間に渡るものであった。鍾乳石採取・鍾乳洞内外の地形地質調査等を目的とした石隊4名(竹村恵二、田上高広、松岡廣繁、渡邊裕美子)と,鍾乳洞内Drip water採取・二酸化炭素濃度測定を目的とした水隊2名(大沢信二、山田誠)で編成された.調査前半は鍾乳石試料、後半は水試料の採取に重点をおいて、調査は進められた。
====== 石隊関係調査レポート ======
まず、共同研究者のいるバンドン工科大学(ITB)を訪問し、事前の準備と打ち合わせを行った。翌日、ITBのBudi Brahmantyo、Khoiril Anwar Maryunaniと共に、2台のワゴン車で現地入りした。バンドンからケブメン付近の宿泊先まで、7時間半程の行程であった。
現地調査1日目(9月6日)は、ケブメンの西側・Karangbolong石灰岩地帯 にあるSurupan CaveとPetruk Cave(観光洞窟)の視察を行った。現地調査2日目(9月7日)は、Petruk Cave(観光洞窟)とAsrep Caveに入り、石筍とつらら石の採取を行った。Asrep Caveは洞内の地図がなかったため、翌日、洞内の測量を行った。さらに、Asrep Caveの隣にあるPenganten Caveでも石筍とつらら石の採取を行った。現地調査4日目(9月9日)の午前中はSurupan Caveの石筍・つらら石を採取し、午後からこれまでに採取した鍾乳石試料の整理を行った。
現地調査5日目(9月10日)、ケブメン付近の宿泊先からジョグジャカルタの宿泊先に移動した。10日からケブメンでコーラン大会が行われていたため、付近のホテルが取れず、ジョグジャカルタに宿泊することとなった。ケブメンからジョグジャカルタまでは車で3時間程の行程で、調査後半は調査地域まで往復6時間掛けて通うこととなった。ジョグジャカルタで水隊2名と合流し、Drip water採取について打ち合わせた。
現地調査6日目(9月11日)の午前中は、Surupan Caveで水隊の調査を補助しながら、重さ60kgを超える巨大な石筍の搬出を行った。午後から、Penganten CaveのDrip water採取と二酸化炭素濃度測定、石筍・つらら石の採取、周辺の地形地質調査を行った。現地調査調査7日目(9月12日)、Surupan CaveとPenganten Caveで水隊の補助をしながら、洞内外のルートマップを完成させた。また、中部ジャワの調査とは別に、2名(田上、Brahmantyo)がジョグジャカルタの東側に位置する石灰岩地域の鍾乳洞を視察した。現地調査8日目(9月13日)、ジョグジャカルタからバンドンまで移動した。途中、水隊が井戸水の採取をしながら、11時間半程の行程を経て、バンドンに無事到着した。
9月14日には、ITBで開催された、“インドネシアの鍾乳石を用いた古気候変動”に関するワークショップに参加し、これまでの研究成果の報告と意見交換を行った。ワークショップ翌日、装備や試料の整理をした。その後、田上と渡邊がバンドンに残り、試料の日本への移送の手続き、調査費用の精算、インドネシア側と次回調査の打ち合わせを行った。
今回の調査行では、石筍18個、つらら石14個、石灰岩 3個を採取することができた。岩石試料は全て日本に持ち帰り、岩石記載、ウラン放射非平衡分析や安定同位体の分析等を行い、石筍の成長史を解明する予定である。今後、ジャワ島東部での鍾乳洞調査と石筍試料採取を予定している。
====== 水隊関係調査レポート ======
前回同様、今回の調査で水隊は、降水が地中に浸透してから鍾乳洞天井にDrip waterとして流出するまでに要する時間(traveling time)を、トリチウム-3H年代測定法を用いて導出することを主目的とし、ジャワ島中部のKarangbolong地域の鍾乳洞群でDrip waterの採取を行った。また、鍾乳石の形成に深く関わる鍾乳洞内の大気と同外の土壌空気のCO2濃度の測定も実施した.
水隊合流初日、ジョグジャカルタからKarangbolong地域へと移動した合同調査隊は、全員で、Surupan Caveに入洞し、水隊は洞内1ヶ所にDrip water採取器を設置した。設置後、Drip water採取器設置場所と洞入り口の途中2ヵ所で洞内大気のCO2濃度の測定を行った。さらに、洞外で、土壌空気のCO2濃度の測定も行った。次に、Penganten Caveへ移動した合同調査隊は全員で入洞し、水隊はここでも洞内1ヵ所にDrip water採取器を設置し帰路の途中2ヵ所で洞内大気のCO2濃度の測定を行い、その日の調査を終えた。
次の日は、水隊全員と石隊の松岡氏・渡邊氏およびITBのAnwar氏でまずSurupan Caveへ入洞し、前日設置したDrip water採取容器の回収を行った。設置した採取容器は倒れることなくDrip waterで満たされた状態で回収に成功した。回収後、同じ場所で溶存希ガス同位体測定用にDrip waterを採取した。次に、調査隊はPenganten Caveへと移動し、前日設置したDrip water採取容器の回収へと向かった。回収後、Surupan Caveと同様、Drip waterを採取した同じ場所で、溶存希ガス同位体測定用にDrip waterを採取した。また、その付近に、溶存希ガス同位体測定用試料としてさらに適した状態のDrip waterが在ったため、そのDrip waterも採取した。
3日目、前日まででほぼ予定していた試料水の採取を終えた調査隊は、ジョグジャカルタを後にした。バンドンへの帰路の途中、今回の調査地域近郊のRowokeleという町で参照試料の井戸水の採取を行った。ITBのBudi氏が井戸の所有者と交渉を行い、民家の浅井戸から直接採取した。また、民家の住人が近隣で汲んできて汲み置きしていた深井戸の水も頂き、浅井戸と深井戸から2種類の地下水試料を採取することができた。
今回の調査で採取した試料水は、鍾乳洞内Drip waterの3試料(うち1試料は溶存希ガス同位体測定用のみ)、鍾乳洞周辺地下水の2試料であり、試料は破損・紛失することなく全て日本に持ち帰ることができた。現在、採取試料水の一般水質分析、安定同位体分析(δDwater、δ18Owater、δ13CDICの測定)、トリチウム濃度測定とHe同位体分析を順次行っているところである。

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Fig 1:Sample List (石隊)

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Photo 1:調査メンバー (石隊)

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Photo 2:石筍・つらら石採取の様子1 (石隊)

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Photo 3:石筍・つらら石採取の様子2 (石隊)

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Photo 4:Surupan Cave に設置したDrip water採取器

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Photo 5:土壌空気のCO2濃度測定

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Photo 6:Penganten Caveに設置したDrip water採取器

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Photo 7:溶存希ガス同位体測定用試料の採取。写真はSurupan Caveでの採取風景。

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Photo 8:井戸水(浅井戸)の採取

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