京都大学 大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻、理学部 地球惑星科学系

MENUMENU

断層破砕帯から活断層の最近活動性評価

林 愛明 (地球物理学教室・教授)

研究プロジェクトの概要

 プレート内部の大地震のほとんどは既存の活断層が繰り返し動いて発生する.従って,大地震がどのような機構で同じ断層帯において繰り返し発生するのかを明らかにするためには,大地震の震源となる活断層の活動性・破砕帯の構造特性の理解が必要となる.断層破砕帯は,一般的にダメージゾーン(Damage zone)とコアゾーン(Core zone)から構成される(図1).コアゾーンが断層ガウジと断層角礫から構成されるのに対して,ダメージゾーンは原岩起源のカタクレーサイトと割れ目の発達した原岩から構成される(Lin and Yamashita, 2013).活断層破砕帯の調査研究における最も重要な目的のひとつは断層破砕帯の規模(幅)の空間変化・組織構造・形成年代と最近活動年代,それに関連した断層岩の形成機構を解明することである. 

 最近,活断層破砕帯は,原子力発電所の敷地における地震安全性評価や断層活動性の判断などに関連して社会的に大きく取り上げられており,国内・国外で注目されている.本研究プロジェクトの目的は,活断層における破砕帯のマクロとミクロ組織構造と活動年代との関係及びそれに関連した震源断層岩の物性を調べ,活断層破砕帯の構造特性と断層の活動性との関連性を解明することと,活断層破砕帯による地震ハザードの評価と原子力発電所のような重要施設の敷地における地震安全性評価などに科学的な根拠を提供することである.本研究プロジェクトでは,活断層の性質を把握するための各種地質調査(活断層と基盤岩破砕帯トレンチ,断層破砕帯のマッピングと電磁気探査など)とボーリング掘削を実施し,異なる深度の断層破砕帯の試料を採取するとともに,各種の年代測定・断層岩の組織構造の解析・化学分析および地震断層の高速摩擦すべりの物理学的・化学的な過程を復元するための基礎データを取得して,断層の活動性の総合的な評価手法の確立を目指すものとする. 

研究内容

 断層破砕帯の組織構造と断層岩物性の解析を行い,断層活動性を評価する手法を検証するための調査・研究の一環として,主に1995年兵庫県南部地震が発生した野島断層を調査・研究の対象とする.また,野島断層の破砕帯構造・断層活動性と比較するため,花崗岩の破砕帯が発達した,活動性の高い有馬−高槻構造線活断層帯を比較研究対象とする.断層破砕帯の幅や性状を特定するとともに,活断層破砕帯の表層部のトレンチと浅部〜深部ボーリング掘削を行い,浅部〜深部までの異なる深度の断層帯物質試料を採集して,室内摩擦剪断実験と複数種類の年代測定を行う.

トレンチ調査と露頭観察

 野島断層と有馬−高槻構造線活断層帯において,活断層の最近の活動性を解明するためのトレンチと断層破砕帯構造を観察するための基盤岩破砕帯のトレンチ掘削が行われた(図2-4).基盤岩(花崗岩)と大阪層群が接している断層破砕帯が観察された(図2-3).野島断層において,断層ガウジ,断層角礫,カタクレーサイトからなる断層破砕帯が,花崗岩と大阪層群の泥岩において幅10m以上に発達することが明らかになった.


図2.野島断層破砕帯トレンチ全景

図3.野島断層破砕帯トレンチ断面. 花崗岩(右側)と大阪層群との境界断層(左側)が見られる.

 有馬−高槻構造線六甲断層帯において,花崗岩が未固結の沖積層に衝上している構造が見られる.これは最近の活動によるものと思われる(図4左).また,花崗岩と沖積層との境界部に灰白色の断層ガウジが発達している.有馬ー高槻構造線の境界部で,花崗岩と流紋岩との境界断層沿いに発達する黒灰色ー茶色断層ガウジ帯が観察される(図4右).年代測定と分析の結果,この黒灰色断層ガウジが炭化物を含む旧地表の腐食土であることがわかった.これは旧地表の腐食土が地震断層沿いに注入して形成した断層ガウジであると考えられる.また,この断層周辺域にはネットワーク状に発達する「地震の化石」であるシュードタキライト脈が多く見られる(図5).これらのシュードタキライト脈は溶融起源のものではなく,地震時の断層剪断作用により粉々に粉砕された原岩の超細粒物質から構成される(Lin et al., 2013).これは,地震時の断層摩擦熱によりthermal pressurization と 粉砕物のfluidizationにより形成されたと考えられる.


図4.有馬-高槻構造線六甲断層トレンチ断面. (左)花崗岩(左側)が沖積層(右上側)に衝上している.花崗岩(左側)と沖積層との境界部に灰白色の断層ガウジが発達している. (右)有馬-高槻構造線六甲断層トレンチ断面.花崗岩(左側)と流紋岩(右側)との境界断層沿いに発達する2本の黒灰色-茶色断層ガウジ帯が観察される.

図5.有馬-高槻構造線六甲断層トレンチ周辺域の脈状断層岩
(黒色シュードタキライトのネットワーク脈)

ボーリング調査

 異なる深度(温度・圧力の条件)で形成された断層破砕帯の断層構造の解明と試料の採集を行うために,現在,野島断層帯で最大深度1500mまでの浅部と深部ボーリング掘削を数本実施している(図6).



図6.野島断層ボーリング掘削風景(斜めボーリング)(左)とコア(右).

今後の予定

 現在,進行中のボーリング掘削により採集される試料を用いて,断層破砕帯の微細構造と断層物質の各種年代測定を行う予定である.また,本研究プロジェクトでは,地震断層運動時の断層面の摩擦熱や剪断作用により地震すべり帯の物質の年代信号がリセットされる温度・圧力などの物理学・化学的な環境を解明するため,京都大学に設置された二軸回転・低速-高速間隙圧式摩擦試験機を用いて実験を行う.地震時の断層滑り帯(ガウジ)の摩擦プロセスを高速摩擦実験で再現して,断層面沿いに発達した断層ガウジの形成機構および地震断層摩擦熱と断層ガウジの形成年代(ESR,TL,OSL,K-Ar,FT,U-Heなどの年代)との関係を解明する予定である.

 以上のように,本研究プロジェクトでは,地質学,地形学,地球物理学,断層年代学,地球化学および断層摩擦実験という総合的な研究により,断層破砕帯の最近活動性評価における世界に先駆けた研究成果が期待される.

参考文献

(1) 林 愛明・井宮 裕・宇田進一・飯沼 清・三沢隆治・吉田智治・d松保貴・和田卓也・川合功一, 1995. 兵庫県南部地震により淡路島に生じた野島地震断層の調査.地学雑誌,104, 113-126.

(2) Aiming Lin and Shinichi Uda, 1996. Morphological characteristics of the earthquake surface ruptures occurred on Awaji Island, associated with the 1995 Southern Hyogo Prefecture Earthquake. The Island Arc, 5, 1-15.

(3) Tadashi Maruyama and Aiming Lin, 2002. Active strike-slip faulting history inferred from offsets of topographic features and basement rocks: a case study of the Arima-Takatsuki Tectonic Line, southwest Japan. Tectonophysics, 344, 81-101.

(4) Aiming Lin and Katsuhiko Yamashita, 2013. Spatial variations in fault zone structures along strike-slip faults: an example from the active faults, southwest Japan.Journal of Structural Geology, 57, 1-15. http://dx.doi.org/10.1016/j.jsg.2013.10.006

(5) Aiming Lin, Katsuhiko Yamashita, and Makoto Tanaka, 2013. Repeated seismic slips recorded in ultracataclastic veins along active faults of the Arima-Takatsuki Tectonic Line, southwestern Japan. Journal of Structural Geology, 48, 3-13. http://dx.doi.org/10.1016/j.jsg.2013.01.005

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