◆「成層圏対流圏大気の変動に対する強制の影響 ―どのくらい有意?―」
内藤 陽子(理学研究科)
冬の成層圏極域では、「突然昇温」と呼ばれる数日スケールの
大規模な現象があり、それが起こる頻度も含めて、大気循環の変
動が大きい。その変動は、プラネタリー波の伝播などを通して対
流圏大気循環の変動と密接に繋がっている。このような中高緯度
成層圏対流圏大気結合系の変動に影響を及ぼす外的強制の一つと
して、赤道域下部成層圏に卓越する準二年周期振動(QBO)を
考えることができる。
我々は、QBOの位相(赤道域が西風か東風か)によって中高
緯度の成層圏対流圏大気循環の変動がどう異なるかを調べてきた。
最近は特に、得られた差の統計的有意性の見積もり方を考えてい
る。今回のセミナーでは、数値実験で得られたデータと現実大気
から得られたデータの両方を用いて、統計解析の手法と結果を紹
介する。この手法で他の外的強制(太陽活動、火山噴火など)の
影響について同様に解析することも可能である。
[セミナー風景]
◆「日本とその周辺地域における長鼻類(ゾウ)の進化」
神谷 英利(理学研究科 地質学鉱物学教室)
地球上の生物の進化史は地層の中に残されている化石の研究を
よりどころにして明らかにされてきた。化石にもとづいて進化のプロ
セスがよく知られている代表的な動物が「長鼻類」(ゾウ)である。
ゾウは今では限られた地域にしか生息していないが、かつては世界の
ほとんどの地域・環境に適応して生きていたごく普通の動物だった。
日本には中新世初期の約1700万年前に原始的なゾウであるゴンフォテリウムが
来たのが最初で、それ以後わずか2万年前の氷河時代末期まで、ほとんどの
時代にいろいろな種類のゾウが棲みつき、独自の進化をとげた。鮮新世
(約400万年前)には肩の高さが4.5mもある巨大なミエゾウ(シンシュウゾウ)
がいたが、これは史上最大のゾウである中国の「黄河ゾウ」と近縁である。
次の時代の更新世前期(200〜100万年前)の地層からは肩高1.8mに過ぎない
小型のアケボノゾウの化石が発見されるが、これは前の時代のミエゾウが
日本の地域で小型化(矮小化)したものとされる。
動物が島嶼などの隔離された環境の下で小型化する例はいくつか知られている。
インドネシアのジャワやフロレスなどの島々からは体の大きさが通常の半分
以下という非常に小型化したゾウ(ステゴドン)の化石が発見される。肩高は
おそらく1.5m以下である。最近、フロレス島で身長が約1mしかないジャワ
原人の末裔(18000年前)の化石が発見されて新聞紙上を賑わしたが、これは
上述の矮小化の人類版である。
更新世後期には、日本を代表する化石ゾウであるナウマンゾウが列島の
ほとんどの地域に生息しており、また北からはマンモスもやってきた。
このように日本におけるゾウの進化史は非常に多彩であり、また中国など
大陸地域や東南アジア地域と深いかかわりを持っている。
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