京都大学21世紀COEプログラム 活地球圏の変動解明 アジア・オセアニアから世界への発信

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AGU チャップマン会議“Jets and Annular Structures in Geophysical Fluids”の報告

余田 成男

 アメリカ地球物理学連合(AGU)は、毎年何件かの特定のテーマについて50〜100人規模のチャップマン会議を各地で開催している。今回、Robinson(イリノイ大)と余田(京都大)がコンビーナーとなり、2006年1月9〜12日、ジョージア州サバンナで「地球流体中のジェットと環状構造」に関するチャップマン会議を、KAGI21、NSFとの共催で開催した。日米をはじめ13カ国から70余名の参加者があり、(A)大気中のジェット、(B)海洋中のジェット、(C)大気の環状変動、(D)惑星大気のジェットと環状流、(E)地球流体力学的にみたジェット、の5つの話題について、レビュー講演(6件)、招待講演(22件)、および、ポスター発表(40余件)を行った。レビュー講演は、各分野で主導的な役割を果たしてきたMcIntyre(ケンブリッジ大)、Lee(ペンシルベニア州立大)、Marshall(MIT)、Wallace (ワシントン大)、Allison(NASA/GISS)、Rhines(ワシントン大)の6氏にお願いした。とくに、β平面上の減衰性2次元乱流における帯状ジェット構造形成を論じた“Waves and turbulence on a beta-plane”の論文発表(Rhines 1975, J. Fluid Mech.)から30年が経過したことを記念して、Rhines氏には、2日目のアフター・ディナー・トークで、地形によるジェット強制について理論から最近の室内実験や観測・データ解析にまで及ぶ内容をたっぷりと語ってもらった。
 この会議のハイライトの1つは、太平洋域の高分解能数値シミュレーションで予言的に見出され観測データで発見された海洋中の多重東西ジェト構造(Galperin et al. 2004, Geophys. Res. Lett.)である。木星型惑星に見られる多重の環状流との類似性や、回転球面上の2次元乱流中におけるジェット形成メカニズムとの関連など、広い分野の研究者を巻き込んで熱い議論がなされた。また、傾圧擾乱による対流圏界面亜熱帯ジェットの形成維持過程が南極周極流のそれと力学的に相似な現象と認識しうる(基本場の傾圧性が南北加熱差によって維持されるか、海面での摩擦応力によって維持されるか、の違いはあるが)という話題も、地球流体力学的普遍性を具体的に示す好例であった。さらに、周極ジェット気流の時間変動が特徴的に環状パターンを示すという認識が、天候の延長予報や今世紀中の気候変化予測などにも役立ちうる可能性が指摘され、実用的応用的な興味も喚起した。
 この機会に、KAGI21のK2プロジェクトで開発したKAGI21 Computer Exercise Series, Vol. 1“An Introduction to Geophysical Fluid Dynamics”のCDを参加者全員に配布した。これは、地球流体力学の基本的な数値実験演習をパソコンでインタラクティブに実行できるもので、すでにいくつかの好意的な反応を得ている。

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Jets and Annular Structures in Geophysical Fluids

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余田がオープニングでこの会議の趣旨説明をしているところ

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最終日夕刻のパネルディスカッション。Robinson(イリノイ大)が司会進行役、プログラム委員のRhines(ワシントン大)、Baldwin(NWRA)、林(北海道大)、 Allison(NASA/GISS)、Haynes(ケンブリッジ大)がパネリストとなって、この会議の総括をした。

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