京都大学21世紀COEプログラム 活地球圏の変動解明 アジア・オセアニアから世界への発信

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活地球圏セミナー 第8回 (2004年12月8日)

◆「気候モデルWACCMで再現されたENSO的SST強制に伴う成層圏突然昇温の発現頻度の変化」
  田口 正和(生存圏研究所)

 NCARで開発された全層大気気候モデルWACCMを用いた理想的な実験により、ENSOに伴う成層圏突然 昇温の発現頻度の変化とそのメカニズムを調べた。実験では、永続的な1月の条件下で、熱帯太平洋の SSTをラニーニャ的状態としたランとエルニーニョ的状態としたランについて各々100冬行なった。
実験により、成層圏突然昇温は、エルニーニョ的状態の時に、より多く発現することが分かった。 この変化は、成層圏変動の分布関数(PDF)の形の変化を生み出す。
エルニーニョ的SST強制は、よく知られたPNAパターンを誘起する。これは、上部対流圏・下部成層圏で 東西波数1の惑星波活動を強化する。それは、下部成層圏で波動による極向き温度フラックスのPDFの シフトにより特徴付けられる。PDFのシフトの結果、エルニーニョ時には、極端な惑星波イベントの 頻度が増加し、より多くの突然昇温をもたらす。また、エルニーニョ時には波数1(極渦シフト)型の 突然昇温が好まれる一方、波数2(極渦分裂)型の突然昇温はラニーニャ時に起きやすい。

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◆「物質科学から挑むマントルウェッジの4次元解析」
  山本 順司(理学研究科付属地球熱学研究施設)

 近年,我々が生活を営む地球表層環境に関する議論が活発であるが,地球表層環境は地球内部から もたらされるエネルギーと密接に関連していることを忘れてはならない.例えば,1997 年,地球温暖 化防止京都会議において採択された京都議定書には,地球深部から火山噴火などを通して地球表層へもた らされる二酸化炭素量やその起源についての議論が抜け落ちている.地球深部から地表へも たらされる二酸化炭素流量は人為的な排出量のわずか数%に満たないが,我々の研究によると,地球深部起 源の二酸化炭素流量を地球の年齢(46億年)で積分すると地球表層付近に存在する総炭素量に一致すること が明らかになった.この事実は地球内部には依然 として大量の炭素が存在し,今後も現在と同程度の地球 深部起源の二酸化炭素流量が継続するという地球表層環境にとって極めて深刻な未来を暗示した. しかも,人為的に排出される二酸化炭素は地表の炭素(化石燃料)を地表へ戻す横滑りの循環に過ぎないが, 地球深部から流出する二酸化炭素は地球表層の炭素量を永続的に増大させるという人為的な擾乱を 遙かに凌ぐ潜在的な影響力を有し,我々の環境の抱える諸問題はこのような大規模な時空的変遷の末に 顕在化したものも少なくない.
 このような地球深部起源のエネルギーは,主にプレート収斂域(沈み込み帯)におけるマグマ活動に よって解放される.しかしその主因の一つと考えられる沈み込んだ地殻物質が上部マントルへどの ような過程を経て及んでいるかは未だ判然としない.それゆえ,私は沈み込み帯における物質循環系の 完全解明を目指しており,その方途の一つとしてウェッジマントル起源のマントル物質に見られる流体を 研究してきた.しかし,地表に複雑な過程を経てもたらされたマントル起源物質は元々どの程度の深さに 存在していた岩石であったのかが分からない.そこで本発表では,新たに開発した地質圧力計 (マントル起源物質(マントル捕獲岩)が由来した深さを高精度に復元する方法)を解説し,その先に 見えつつある”マントルウェッジの四次元解析計画”を紹介したい.

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