京都大学21世紀COEプログラム 活地球圏の変動解明 アジア・オセアニアから世界への発信

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拠点形成の目的、必要性・重要性

本拠点がカバーする学問分野

長い地球史の諸変動のうち、特に人間活動の時間スケール(1秒から数千年まで)で変動し、 人と自然の共生をはかる上で重要な空間領域(リソスフェア から超高層大気まで)を「活地球圏」として新たに定義し、そこでの変動を本拠点の主な研究対象として、 フィールド研究からモデル研究までを融合した地球科学の発展と深化をめざす。

我々がこれまで注目し精力的に研究を展開してきたアジア・オセアニアは、 地球上最大の変動域である。これらの地域では、世界屈指のプレートの沈み込みや インド-ユーラシア大陸間の大規模衝突に伴って巨大地震や火山噴火が頻発し、 活地球固体圏の変動の中心地帯となっている。 一方、同地域の流体圏では組織化した積雲活動に駆動されて アジアモンスーンエルニーニョ現象が発生し、 これらは地球全体の気候変動や水循環に支配的な役割を果たしている。

このような活地球圏の変動現象は、多重の時間空間スケールで複合的に生じている点に 特徴があり、従来の地球科学の枠組みを超えたものである。 複合的変動過程の解明には、「活地球圏」と「アジア・オセアニア」という 新たな視点のもとに、「同業異分野の研究者が混在する活地球圏を覗くルツボ」を 形成することが極めて重要である。 本拠点では、これにより創成できる「活地球圏変動の科学」という先端的な 地球現代史科学を対象とする。

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本拠点の特色

「活地球圏変動の科学」を創成するために、アジア・オセアニア域での諸変動を主たる 研究対象として、地球科学の基盤である超高層物理学、大気・海洋科学、地震・火山・地殻変動学、 地質科学、地球物質科学を横糸に、研究手段であるフィールド観測・調査、衛星計測、 データ解析、室内実験・計算機実験を縦糸として、分野横断的に密接に連携した 世界最高水準の研究教育拠点を形成することを目的とする。

参画組織である地球惑星科学専攻は、本学建学の頃より固体圏・流体圏の幅広い分野で 優れた研究成果を挙げ続けるとともに、長年にわたりアジア・オセアニア域で 多面的かつ緊密な国際共同研究を実施してきた。地球熱学研究施設は大正時代より 東アジアにおける地球内部熱活動の観測研究を推進し続け、地磁気世界資料解析センターは 1977年の設置以来、国際学術連合下の世界資料センター(WDC)の一翼として アジア地域を担当してきた。 また、宙空電波科学研究センターは、インドネシアでの観測的研究を10年以上継続し、 2001年には同国に赤道大気レーダーを開設するなど、世界的な観測研究施設として 極めてユニークな役割を果たしている。宙空電波科学研究センターは機関COEとして MUレーダーや計算機実験装置などの全国共同利用を推進しており、 防災研究所も同じく機関COEとして国内外での地球科学共同研究の推進に主導的な役割を担っている。 従って、これらの実績のある研究組織を有機的に結集すれば、地球科学分野における 先導的かつユニークな活地球圏の研究教育拠点をアジア・オセアニアに形成できる。

最重要な変動地域であるアジア・オセアニアを突破口にした拠点形成は、 地球科学全分野での研究・教育の発展に寄与するだけでなく、 京都大学の将来構想にある「海外拠点作り・共同研究の推進」を一段と進展させる。 21世紀COEプログラムとして昨年採択された本学の「生物多様性」および 「人文・社会科学」の2つのアジア研究拠点に加えて、同地域を中心とした 地球科学分野の国際研究教育拠点を形成すれば、相乗的効果により、 本学におけるアジア国際共同研究は一層加速し、文系理系の幅広い分野にわたる 世界への情報発信が可能となる。我々は、これまでの海外での研究実績を踏まえて、 その重要な役割を担う覚悟である。

また、本拠点形成は、欧米に対する第3極としての研究・教育をアジアにおいて 充実させるためにも不可欠である。 人類の半数以上が生活するアジア地域で優秀な人材を発掘し育成すれば、 活地球圏の最重要な変動地域において世界最高レベルの国際共同研究を推進しうる体制を 構築できる。

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本拠点形成のユニークさ

46億年に及ぶ地球史上の諸変動に関する網羅的研究を基礎にして、 人間活動に直接関わる「活地球圏」の新概念を創造し、それを中心とした 「地球の現代史」を包括的に捉える新たな地球科学を創成するのが 最もユニークなところである。また、変動の最重要地域であるアジア・オセアニアに 重点を置き、我々の諸観測設備を現地に展開し継続的な国際共同研究を推進して 活地球圏の変動解明を目指す拠点形成は、国内外を問わず比類のない試みとなる。

また、プログラムを貫く科学的テーマとして 「水・熱フロー」を取り上げ、 それらが活地球圏の諸変動に果たす役割を解明する点に特色がある。 これらは全領域での物質とエネルギーの循環過程の鍵である。 特に、現代地球科学の最重要課題であるプレートの動力学と地震・火山活動の発生に 果たす固体圏中の水の役割、および、気・液・固体と相変化しながら流体圏変動を 駆動する水の熱・物質収支の動態解明に焦点を当てて、活地球圏の変動を 統一的な視点で理解する。

さらに、従来の所属機関を拠点とした教育・研究のみならず、現地での教育・研究を 積極的に実施することにより、本拠点を、日本国内の“点”としてではなく、 アジア・オセアニアの“面”として捉える視点にもユニークさがある。

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本拠点形成の重要性・発展性

本プログラムは、地球科学分野における京都大学の総合力を最大限に発揮して、 固体地球から流体地球までの全活地球圏をカバーする。 このような研究内容・手法・組織形成は他の機関では不可能といえる。 従って、本研究教育拠点の形成は、個別現象のレベルに留まっている我が国の 地球科学研究の現状を打開し発展させるうえで極めて重要である。

地球上最大の変動域であるアジア・オセアニアを起点とした活地球圏変動の科学の創成は、 アジアに位置する我が国の地球科学分野における重要な使命である。 同地域からの研究成果を世界に発信する重要性は、 エルニーニョなどのアジア・太平洋起源の変動が 地球全体の気候に与える影響の大きさを鑑みれば明白である。

複合的な活地球圏の変動を解明するには、個別的な研究の寄集めでは限界があり、 「同業異分野の研究者が混在する活地球圏を覗くルツボ」を形成して 世界に先駆ける研究拠点を形成する必要がある。 このような拠点形成は、我が国における次世代の地球科学研究の推進にとって不可欠である。

また、活地球圏変動の科学の創成は、地球環境問題の解決などに向けた、 将来予測型の地球科学としての重要な役割を果たす。

アジア・オセアニア域での人材育成は、我が国のCOEとしての重要な国際貢献の一つである。 アジア諸国をも包括した研究・教育拠点の形成により、地球科学分野での欧米に拮抗する 第3極の構築を目指した大きな展開が見込まれる。

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期待される研究・教育の成果

縦横に連携した研究の組織的推進により、活地球圏の変動に関する最新描像を獲得し 全体像を明らかにする。活地球流体圏と活地球固体圏での各々の変動と両圏境界での 相互作用を対象とする3つの重点科学事業(J1-J3)と、地球科学と先端的技術の融合をはかる 2つの共通基盤事業(K1-K2)において、期待される研究成果のハイライトは次である。

J1:
エルニーニョ予測の鍵をにぎる熱帯太平洋の年々変動と アジアモンスーンとの相互作用を解明する
J2:
断層研究と地震学を実験・理論を介してつなぎ、水の影響に着目して地震発生機構を解明する
J3:
固体・流体両圏境界での相互作用の時空間変動を明らかにし、多重時間変動像を構築する
K1:
地球科学分野横断型の斬新な地球計測法開発を進め、海外研究教育拠点を構築して国際共同研究を推進する
K2:
活地球圏科学研究者の情報交換を緊密化し、新たな地球科学の創成にむけた情報統合化を推進する

また、これまで培ってきた教育実績を踏まえ、上記の研究活動と密接に関連させた教育活動を 日本国内およびアジア諸国で展開することにより、次の3タイプの人材を育成する:

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学術的または社会的な意義・波及効果

人の身近で起る地学諸現象は、人間の生存に直接関係するとともに 自然観の形成に重要な要因であるため、古くから自然科学の重要な研究対象であり続けた。 20世紀後半には、急進歩を遂げた地球計測技術による全球的観測や計算機科学の発展によって 大気・海洋変動の検知・予測が可能となり、また、長時間にわたる緩やかな固体地球変動に 関する新しいテクトニクス説が誕生するなど、地球科学は大きな変革を遂げた。 このような変革により、身近な地学諸現象を活地球圏の変動として包括的に捉え 体系化する新しい地球科学の創成がようやく可能となってきた。

一方、高度化した人間社会は自然災害や環境劣化に脆弱になっている。 近年顕在化した自然災害や環境劣化は複合プロセスとして生じる点に大きな特徴があり、 人と自然の共生をはかる上で基本となる将来予測型の地球科学としても、 活地球圏の変動に関する科学の創成とその教育が国際的に求められている。 本プログラムの研究成果は、例えば「地球温暖化防止のための京都議定書」に 代表されるような、地球環境問題の解決にむけた気候変動予測に活用できるなど、 将来予測型の地球科学として、その社会的貢献度は高い。

このような活地球圏の全領域で研究を遂行できる実績と人材を有する機関は、 国内外においてごく限られている。京都大学が培ってきた研究教育の実績と特色を 最大限に発揮・活用し、組織の再編と研究・教育プログラムの新規な 企画を通じて、本研究教育拠点を活地球圏変動の科学における世界の最先端組織にする。

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