京都大学 大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻、理学部 地球惑星科学系

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田中裕介さん(海洋研究開発機構)

地球惑星科学専攻の卒業生である田中裕介さん(2009年度修士課程修了)は、学部・大学院時代に、海洋学の研究に携わり、現在は海洋研究開発機構(JAMSTEC)で勤務されています。今回は田中さんにお時間をいただき、学生時代の研究や現在の仕事についてインタビューを行いました。


【写真:田中さんの作業スペース。モニターをいくつも並べて研究している。】

――小学生の頃はどんなことに興味がありましたか?
小学校の時は、自然全般に対して興味を持っていました。毎年、家族で高知県の海辺に旅行に行っていたのですが、そこで見かけた熱帯系の生き物や貝殻、変わった色の石などがとても面白かったんです。また、阪神淡路大震災が大きな出来事でした。当時は大阪南部に住んでいて、震度4程度だったので、直接大きな被害を受けたわけではありませんでしたが、やっぱり衝撃は大きかったですね。これらの経験が、地球に興味を持つきっかけになったんだと思います。

――中学生~高校生の頃はどうでしたか?
中高一貫の学校に通っていて、中学卒業時に卒業研究という形でレポートをまとめる課題がでました。テーマは自由に選べたので、「気象」を選びました(理由は思い出せません)。新聞の天気図や気温一覧表の切り抜きを集めたり、一般的な気象関係の知識をまとめたりしました。その興味が高じて、高校生の時に気象予報士を取得しました。 ただ、高校では地学の授業がなかったので、京都大学の入試では物理と化学で受験しました。

――京都大学に入学して印象に残っていることはありますか?
1回生対象の全学共通科目にあった地球惑星科学分野のリレー講義が印象に残っています。特に淡路先生(当時の海洋物理学研究室の教授)の講義で、海洋が地球全体の気候に影響を及ぼしているということを知り、面白いと感じました(淡路先生の人柄も印象深かったです)。その時は気象か海洋かは決めていなかったのですが、系登録の時にはどちらでも選べる地球物理を選びました。

――3回生では系登録で地球物理を選ばれたわけですが、3回生の演習ではどのようなことをされていましたか?
DDでは、秋友先生のもとで簡単な海洋モデルを作って、いろいろな風を吹かせた時にどのような流れができるか、という実験を行いました。Fortranを使って、一から自分でプログラムを書いて動かして、描画ソフト(IDLという海洋物理学研究室で使っていた有償ソフト)を使って結果を可視化していました。実験の前に結果を予想し、予想とは違う結果がでた時に、それはどうしてだろうかと考えることが面白かったです。今の研究のベースになった内容でした。今から考えると、3回生後期の半年でいきなりモデルを書かされて、動かして結果まとめるなんて、自分でもすごいことをやっていたなぁ、と思います(笑)。固体系(DC)では、測地で、花折断層をまたいだ重力測定と水準測量をしました。自分のとったデータを過去のデータと比較して傾向を見ることができて面白かったのと同時に、水準測定の精度を確認した時に、精度の高い観測を行うことの難しさを感じました。

――4回生では海洋物理の研究室を選ばれたそうですが、どんな研究をされていたのですか?
3回生から引き続いて、海洋モデルを使った研究をしていました。この時は、すでに書かれたプログラムを、自分の研究の目的に合わせて改造して研究をしました。3回生で使ったものよりも複雑な物理現象を扱えるモデルで、10年規模の周期での黒潮をふくめた太平洋の変動のメカニズムを簡単なモデルで解明する、といったことをしていました。計算にスパコンを使うことができたので、太平洋に相当するような広い範囲を高い解像度で計算するからこそ見える現象を解析することができました。簡単なモデルを使うことで問題を単純化して物理プロセスを明らかにし、それを現実に当てはめて自分の考えたプロセスが正しいかを検証する、というアプローチで研究を行なっていました。

――その後、大学院の修士課程に進学されていますが、そこではどんな研究・生活をしていましたか?
修士では、4回生の時と同じモデルの計算結果を解析していましたが、テーマを変えました。 木星には縞模様が見られますが、その形成メカニズムと縞の幅は自転する惑星上の流体力学の理論からある程度解明されていました。ちょうどその頃、海水も自転する地球上の流体なので、大気の風による流れの影響を直接受けない深いところの流れには、木星同様に縞模様が見られる、ということが現実的なモデル結果や観測結果からいくつか報告されている時期でした。ただし、大気と違って海洋には海岸という「壁」があって、地球1周ぐるっと回ることができるのは南極周辺だけなので、大気と同じメカニズムで説明できるか,縞の幅が大気と同じように決まっているか、といったことについては解明されていませんでした。そこで、簡単化したモデルによる数値計算結果を用いて解析を行い、スケールを比較しメカニズムを解明することをテーマとしました。 実際に自分のモデルの計算結果には縞模様が現れており、木星と同様に大気で考えられた理論に合う領域があった一方で、「壁」の存在という海洋独特の特徴の結果形成される縞模様もあることがわかりました。そして、この成果は国際誌に投稿し論文として出版されました(Tanaka and Akitomo, 2010)。


【写真:田中さんの修士論文の一部。地球惑星科学専攻にて閲覧可能。】

――修士課程修了後に就職されましたが、どのような仕事をなされていましたか?
修士修了後は、空調メーカーに就職し、空調機の設計など機械系の仕事をしていました。ただ、地球、特に気象・海洋に関係する仕事につきたいという思いが強くなり、2年半経ったときに気象コンサルタント会社に転職しました。中途採用面接の際には、修士課程で用いた解析手法が、その会社で開発しようとしていた技術に重要だったという幸運もありました。当時の業務は試験運用中だったXRAINを用いた降水予測システムの開発がメインで、他にダムや川の水位の実況監視や予測のシステム開発などにも関わっていました。その後、JAMSTECから出た公募に応募してJAMSTECに移りました。

――現在JAMSTECに勤務されていますが、どのような業務をされていますか?
現在は「東北マリンサイエンス拠点形成事業」というプロジェクトに携わっています。このプロジェクトの目的は、地震に伴う津波で大きな被害を受けた三陸沿岸の水産業の復興に、学術的な観点からサポートを行うことです。その中で私は、東北地方を対象にした水温、塩分、海流などを再現、予測する海洋モデルの開発を担当しています。現在は、モデルを構築し、過去に得られた海洋の観測データと比較することでモデルの性能を評価したり、モデルの改善に取り組んだりしています。水産や生態学を専門とする研究者とも協力して、水産資源の資源量を推定したり、どこに分布するかのマッピングをしたりという研究も行なっています。今後は、それらの知見をもとに漁場の予測、資源量の予想を行えるように研究開発をすすめる予定です。


【図:海洋モデリングの結果のスナップショット。津軽海峡の東西に大きな渦が見える。】

――2014年10月からは地球惑星科学専攻の博士の学生としても在籍されていますが、京大ではどんな研究をされていますか?
今の業務と内容が少し似ていますが、モデルの解像度を細かくすることで、今までは再現できなかった水平スケールの小さな現象が、大きなスケールの海洋の循環にどんな影響を与えるのかを調べています。月に一回程度京大に来て、セミナーに出席して他の研究室メンバーの研究を聞いたり、指導教員である秋友先生と自分の研究の進捗について議論をしたりしています。 もちろん、業務との両立はなかなか大変ですが、日常の業務では社会貢献(今のプロジェクトでは復興)を強く意識した研究開発の方針だったり情報公開だったりする一方で、学生の身分では純粋に科学的に興味があることを究明するという環境で研究できることは、気持ちの切り替えもできてよかったと思います。

――現在の業務や研究で、どんな時にやりがいを感じますか?
自分たちが研究開発したものから生み出された情報、たとえば海流の予測情報を、必要としている人がいて、その情報を出すことでより効率的であったり安全であったりといった社会への貢献ができるということはやりがいを感じますね。また、JAMSTECにいると、魚類や遺伝子が専門で「しんかい6500」に乗ったこともあるような人や、地質を専門にしている人などとも一緒に仕事ができるので、視野が広がって面白いです。

――何か学生にコメント等ありますか?
修士課程修了後に就職するか博士課程にすすむか悩んだ場合、研究をしたいという思いが強いのであれば、ぜひ博士課程に進んで欲しいと思います。あと、修士課程修了時が最後の選択の機会ではないということも知っていただければうれしいです。

――田中さん、今日はどうもありがとうございました!

(インタビュー日:2017年7月27日)


上記のインタビュー記事では、田中さんが現在の業務・研究に至るまでの経緯を中心に紹介いたしました。JAMSTECによる以下の記事では、現在の研究プロジェクトについて詳細なインタビューが掲載されていますので、ぜひこちらもご覧ください。


【写真:JAMSTECによるインタビュー記事のスナップショット。】

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