京都大学 大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻、理学部 地球惑星科学系

MENUMENU

宮嶋佑典さん(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)

地球惑星科学専攻での研究を通して

東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設 宮嶋佑典
(2017年度地球惑星科学専攻博士課程修了)

地球惑星科学に興味を持った理由
私は幼少期を化石の産地として有名な福井県や長野県で過ごし、また小学生の頃に「ジュラシック・パーク」を見た衝撃から、古生物の化石(主に恐竜)に対して強い関心を抱いていました。父親が学者であることも影響し、将来はグラント博士(ジュラシック・パークの主人公)のような古生物学者になって、恐竜の研究をするのだと漠然と考えたまま、京都大学に入学しました。学部3回生になって、地球惑星科学系地質学鉱物学教室に系登録をした私は、古生物学だけでなく岩石学、構造地質学など地質学に関連した様々な授業を受講しました。同期の仲間たちにも恵まれ、当時授業やら野外巡検やら地質学ざんまいの毎日を楽しく過ごしたことが、私の地球惑星科学への強い興味を確たるものにしたと、今になって思います。特に授業で様々な岩石の薄片を観察し、野外巡検で様々なフィールドへ赴いて地層を観察した経験は、化石だけでなく岩石や鉱物、地層を「見て、触れる」ことの楽しさを教えてくれました。

卒業研究での経験
4回生になって、念願通り古生物学(古脊椎動物学)の研究を始めました。当時ある先生の言葉で、自分の手で見つけた化石で研究することの重要性を知った私は、夏休みの間に地元長野のフィールドで発掘した魚化石の研究を行いました。当時の指導教官の松岡廣繫先生の紹介もあって、博物館など学外の門をたたき、外部の研究者とも連携して研究を進める姿勢をとるようになりました。研究室では多くのユニークな先輩方から、プレゼン技術など本当に様々なことを学ばせていただきました。卒業研究の時の経験が、今の私の研究に対する姿勢の基礎を築いたことは間違いありません。

大学院での研究生活
大学院へ進学した私はフィールドに出かける中で、化学合成生物群集の化石に興味を持つようになりました。化学合成生物群集は光の届かない深海底においても、海底下から湧く熱水や冷湧水に含まれるメタン、硫化水素をエネルギー源に生きることのできる特殊な生物たちです。私の地元はたまたま化学合成生物の化石をよく産出する地域でした。化学合成生物群集について調べるうちにすっかり虜になった私は、フィールドをさらに新潟県へ(のちに北海道まで)拡大し、化学合成生物の化石を研究するようになりました。それまで実家を拠点にフィールド調査を行ってきた私は、初めて正真正銘一人ぼっちで見知らぬ土地に踏み込み、最初はクマに怯えながら寂しい気持ちでいっぱいでした。それでも、フィールドで出会った方々や滞在した宿の方々の温かいお言葉と、おいしい食事に支えられながら、野外で自分の手で化石や岩石を発見し、採取することの喜びを改めて味わいました。
化学合成生物群集の化石を研究するには、化石そのものについての知識だけでなく、化石を包含している炭酸カルシウムの岩石(炭酸塩岩)の鉱物組成や炭素の安定同位体組成など、岩石・鉱物学、地球化学といった様々な分野の知識が必要でした。これらの知識を組み合わせて、化学合成生物の古生態などを探るうちに、化石を含む炭酸塩岩そのものを詳しく研究する必要があると感じるようになりました。そんな中、現在の海底の熱水や冷湧水を研究している地球化学者と学外で出会ったことが、私の研究の大きな転機となりました。こうしたきっかけから、博士後期課程では冷湧水で形成された炭酸塩岩を調べることで、化学合成生物の活動の源である冷湧水そのもの、特にそこに含まれるメタンについて知ろうという、地球化学的な観点から研究を行いました。
修士から博士課程の間には、論文執筆や国内・国際学会への参加を通して、自分の研究成果を外部に発信することの重要性と喜びを実感しました。この期間に学会で知り合った国内外の研究者の方々とのつながりは、博士取得後の現在でも私の研究活動の大きな支えになっています。また自分の興味の赴くまま自由に研究を進める私を、博士の指導教官の生形貴男先生をはじめとする当教室の多くの先生方が優しく見守り、励ましのお言葉をかけてくださりました。鉱物学の先生のふとしたアイディアがきっかけで、論文につながることもありました。


写真1:長崎県対馬で見られる地層

写真 2:共同研究者と訪れたロシア連邦サハリン州の海岸露頭

写真 3:新潟県十日町市の露頭から採取した化学合成生の二枚貝シロウリガイ類の化石

現在の職務
博士取得後、東京大学で炭酸塩岩の研究を続けています。私が所属する研究室では、岩石や隕石中の鉱物などの元素や同位体組成を高精度に分析し、地球内部や宇宙についての様々な情報を引き出す研究が可能であり、私が大学院の間に培った研究スタイルをさらに発展させることができています。これまで所属していた地質学鉱物学教室とは一変して、化学専攻の研究室に所属し、フィールドワークではなく実験室で化学分析を行うことが多くなりました。それでも地球惑星科学への興味は変わらず、むしろ広がるばかりです。自分の研究を発展させるためなら、今後もどんどん新しいことに取り組んでいきたいです。


写真 4:東京大学での実験風景。レーザー装置(左の機械)と誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を用いて岩石試料の元素・同位体組成を調べる

最後に
地球惑星科学は複合学問だとよく言われます。私の興味の対象が古生物学から地球化学(恐竜からメタン)へと変遷していったように、地学だけでなく生物学、化学、物理学、数学など様々な学問分野の観点から地球や惑星を理解することが、地球惑星科学の醍醐味だと思います。地質学鉱物学教室では自由な学風もあいまって、こうした多面的な視点で地層や岩石と向き合うことを多くの先生方から学ぶことができます。たとえ高校で地学を学んだことがなくても(私もそうでした)、一人一人のもつバックグラウンドを何らかの形で生かすことができる可能性が、地球惑星科学にはあると思います。

(執筆日:2018年12月4日)

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