京都大学 大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻、理学部 地球惑星科学系

MENUMENU

噴火の大きさは測れる!?

中道 治久(防災研究所火山活動研究センター・准教授)

はじめに

 地震であればマグニチュードがあり,物理的に正しく地震の規模を評価するためにはモーメントマグニチュード(Mw)を使う(1). しかも,ひとたび地震が発生すればすぐにMwが地震波形から割り出され,巨大地震であっても,その波形全体を捉えるまでもなくMwが分かってしまう(2). 地震の場合は大きさと強さというのは明確な関係があるので,どちらかで表現すればよいが,大抵は大きさ(マグニチュード)である. 一方,自然現象で大きさと強さを表す現象に台風がある,台風はその強さを最大風速で表現し,大きさをある風速以上の範囲で表す. さて,噴火の大きさ(規模)や強さ(強度)について数値で表す,もしくは数値化してその区分けで表すものはあるのだろうか? 一応あるにはあるのだが,頻繁に使われているとは言い難い.みなさんは意外だと思うだろうが,噴火の大きさや強さを表す指標が確立していないのである. いや,より正確に言えば,一応定義はあるのだが,その測定手段が確立していないのである. 自然現象の解明ならびに,現象による影響を議論する上で一番基礎となる現象の規模や強度の情報を迅速かつ正確に得る手段が出来ていないのである. そこで,この問題について概観するとともに,最新の研究について述べる.

噴火の規模と強度を表すスケール

 噴火の規模は噴出物の質量もしくは体積で表し,噴火の強度は噴出率(単位時間あたりの噴出物の質量・体積)で表す. 火山噴出物は固体の噴出物(火山砕屑物と溶岩)と火山ガスがあるが,ここでは固体の噴出物を指す. 図1のように噴火の規模・強度と噴火の継続時間の関係で噴火のタイプを整理することができる(3). また,図2に示すように,噴出物の体積の桁で指数化したVolcano Explosivity Index (VEI)(火山爆発強度指標)(4)がある. このVEIは0から8までの範囲で1刻みで表し,小数点以下は表示しない. なぜかと言えば,噴出物の体積の測定精度が悪いからである. 国内外で噴火が発生した場合において,「〇〇において×時×分に発生した噴火の規模は××でした.また,▲▲市において●●cmの積灰がありました」と報道されることはない. せいぜい,立入規制範囲に言及するくらいである(規制範囲を決めるのに最も重要なのは噴火の規模であるのに関わらず). さらに言えば,学会発表などで地震のマグニチュードのような指標で,一般的に示すことはない.学会でも1つの噴火について噴出量がどうであったかで発表講演として十分成り立ち,議論になる. 地震では,その地震を形容するようにM6.7〇〇地震などと称され,よっぽどのことで無い限り,地震規模自体が議論になることはないのと大違いである.


図1. 噴火の継続時間と噴出体積の関係(3).

図2. Volcano Explosivity Index (VEI)(火山爆発強度指標)と噴火事例.USGS Volcano Hazards Websiteより.

噴火の規模や強度を測るには

 噴火の規模は噴出物の質量(もしくは体積)のそのものかそれを指数化したもので表すと先ほど述べた. 火山を含めてあらゆる場所で高解像度のデジタル地形が整備されている現在は,溶岩流ならばレーザー測量や映像から一目瞭然に噴出量がわかる(5). ただし,溶岩流を起こす噴火をしている火山は多くはなく,ここ最近の日本の噴火では溶岩が火口から外には出ていない. そういった噴火では,火山砕屑物(火山灰や火山レキなど)の堆積厚(単位面積あたりの質量)の空間分布をある関数にフィットして噴出量を求めるのが一般的である(6, 7). 堆積厚を求める手法は至って簡単で,物差しで面積を測って,その領域に積もった火山灰を採取して質量を量るのである. 積もった火山灰を調べるのであるが,実際は降雨などにより堆積していた火山灰が洗い流され,または次の噴火でさらに堆積して,噴火との対応がつかなくなる事も多い. そのため,噴火後にいかに測定を迅速にそして,広範囲に行うかが正確な噴出量推定の鍵である. これは人海戦術で行うしかなく,火山噴煙の方向によっては地理的条件で火山灰採取が出来ない場所がどうしても出てくる. 図3は御嶽山2014年噴火後に実施された火山灰調査結果(7)であるが,この調査のために多くの人的および組織的資源が投入された. そのため,直接採取以外の方法で噴出量を測る方法が模索されてきている.


図3. 御嶽山2014年噴火による火山灰堆積量の空間分布(7).日本を代表する数多くの火山地質学者が調査に関わった.

桜島を舞台とした噴出量測定の最新の研究

 それでは,噴出量の測定について桜島を舞台にした最新の研究を紹介しよう. 図4に示すように,噴火に伴って地震が発生し,傾斜計と伸縮計といった地殻変動データに変化が現れる(8). 噴火により火口から火山砕屑物やガスが一気に出ることで山体が急激に収縮し,同時に地震が発生する. その後,収縮が収まりつつも継続し,同時に地震動が継続しているのが分かる. このとき,火口から連続的に噴煙が出ていたことが分かっている. 鹿児島県の各所において火山灰測定が行われており,多数の桜島の噴火について測定された火山灰量と山体収縮量,および地震動の関係が調べられており,関係式が導出された(8). その関係式を用いて,防災研究所火山活動研究センター(桜島火山観測所)では地震と地殻変動のデータから火山灰噴出量を推定するシステムを運用している(図5).


図4. 2013年8月18日に桜島の昭和火口で発生した噴火に伴う伸縮計(EX-R, EX-T)と水管傾斜計(WT-R)の変化(上)と地震振幅変化(下)(8).

図5. 防災研究所附属火山活動研究センター(桜島火山観測所)にて運用している地震動と地殻変動(傾斜計,伸縮計)による火山灰噴出量の推定システム画面.

 もう一つは,気象観測で活用されているレーダーとディストロメーターを使うやり方である. ディストロメーターからは自動的に単位時間あたりの降灰量が得られる.そして実際降り積もった火山灰の量(写真1)と比較をする. そのためには,こまめな火山灰採取(写真2)が欠かせない. 高等かつ最新の技術や装置が必要な訳ではない. 実際の噴煙をみて,火山灰が降った場所に行って火山灰採取をしているのである. 次の噴火がすぐ来るかもしれないし,雨などで流されるかもしれないので,時間の猶予はない. 火山観測データが遠隔で得られて,噴火もカメラで認識される時代であり,さらには登山客らが噴火の第一発見者となり噴火写真がSNSで流れる時代である(9). また,地球科学者の大半は大学のキャンパスもしくは研究所にいる. このように遠隔で噴火が認識できデータが取れる時代なので,学者は火山にへばりついている必要がないというのはもっともだ. それは,地震やGNSSなどのデータを遠隔で取得して,噴火後におもむろに調査するという標準的なスタイルなら火山にへばりついている必要性は全くない. 一方,ここで紹介したように,噴火すればこまめに火山灰採取をし,機動的に機材を動かして,噴火規模の定量化にむけての研究は火山にへばりついているからこそ出来る研究なのである.


写真1. 桜島におけるディストロメーターと火山灰採取作業(金属製ボックス内の火山灰を採取).

写真2. 桜島における火山灰採取作業風景.

噴火の規模や強度の測定は自動化できるのか?

さて,レーダーやディストロメーターを多数展開すれば火山灰量の即時把握が出来るようになるだろうか? これらの気象観測機器の欠点は悪天候時に現れる. これらの機器では雨雲と噴煙雲の見分けと,降灰と降雨の見分けが簡単でないことであり,それは気象観測機器を火山に応用したためある意味仕方ない. 映像も噴火の監視と研究に活用されているが,悪天候で火口が見えない時は噴火すら分からないことがある. では,どうするか. それは,結局は地震や地殻変動や空振といった火山観測データを使うしかないと思う. また,噴火した場合の火山灰の輸送と拡散の予測は現状でもかなり進んでおり,あとは気象条件をどの程度取り込むかだけである. 一番肝心の噴火規模や強度の推定が確立していないだけである. まずは,火山灰採取おおよび気象観測機器による火山灰量の推定と地震動や地殻変動や空振との比較研究を進めていきたい. そして,近い将来に「桜島において×時×分に発生した噴火の規模は3.2です.ただいま噴煙は東方向に流れており,垂水市において4mmの積灰が予想されます.」と報道されるようになるようにするのが目標である.

参考文献

(1) Kanamori, H., The energy release in great earthquakes, Journal of Geophysical Research, Vol. 82, No. 20, 2981-2987, 1977.

(2) Kanamori, H. and Rivera, L., Source inversion of W phase: speeding up seismic tsunami warning, Geophysical Journal International, Vol. 175, 222-238, 2008.

(3) 中道治久・青山裕,地球物理学的多項目観測から見た噴火過程,火山,Vol. 61, No. 1, 119-154, 2016.

(4) Newhall, C.G. and Self, S., The Volcanic Explosivity Index (VEI): An estimate of explosive magnitude for historical volcanism, Journal of Geophysical Research, Vol. 87, No. C2, 1231-1238, 1982.

(5) Slatcher, N., James, M.R., Calvari, S., Ganci, G. and Browning, J., Quantifying effusion rates at active volcanoes though integrated time-lapse laser scanning and photography, Remote Sensing, Vol. 7, No. 11, 14967-14987, doi:10.3390/rs71114967, 2015.

(6) Daggitt, M.L., Mather, T.A., Pyle, D.M. and Page, S., AshCalc – a new tool for the comparison of the exponential, power-law and Weibull models of tephra deposition, Journal of Applied Volcanology, Vol. 3, No. 7, doi:10.1186/2191-5040-3-7, 2014.

(7) Takarada, S., Oikawa, T., Furukawa, R., Hoshizumi, H., Itoh, J., Geshi, N. and Miyagi, I., Estimation of total discharged mass from the phreatic eruption of Ontake Volcano, central Japan, on September 27, 2014, Earth, Planets and Space, Vol. 68, 138, doi:10.1186/s40623-016-0511-4, 2016.

(8) Iguchi, M., Method for real-time estimation of discharge rate of volcanic ash – Case study on intermittent eruptions at the Sakurajima Volcano, Japan -, Journal of Disaster Research, Vol. 11, No.1, 4-14, 2016.

(9) 信濃毎日新聞社編集局,検証・御嶽山噴火 火山と生きるー9.27から何を学ぶか,信濃毎日新聞社,pp263, 2015.

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