京都大学 大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻、理学部 地球惑星科学系

MENUMENU

見ろ、知れ、とんがれ!(手羽先を食べながら)

松岡 廣繁 (地球生物圏史講座・助教)

ここは京都のはずれ。たくさんの寺社にまぎれて、「最先端庵」という小さなお堂があります。お堂の中には無数の動物骨格標本。動物の骨に人生の救いを求める、ちょっと変な人々が、ごくたまに訪れます。住職はQ覚おしょう。生臭坊主です。Q覚の「きゅう」は、漢字があるはずなのですが、よくわからないのでQですましているのです。お堂にはもう一人、美人のきくちゃん(年齢不詳)が居候しています。

近所に住むみるちゃんは、きく姉ちゃんが大好き。お堂に出入りするうち、超絶解剖テクニックを身につけました。お父ちゃんにお願いして誕生日に買ってもらった解剖用のメスと鋭いハサミが宝物。いつもむきむきする材料を探しています。

みるちゃん・きくちゃん・Q覚おしょうのトリオが、今日も肉のにおいに集まります。

みるちゃん:きーくーちゃーん、あーそーぼー。

Q覚おしょう:おや、みるちゃん、こんにちは。きょうもかわいいの。きくはねじりまんぽまでお散歩じゃ。じき帰ると思うがの。

みるちゃん:おしょうさん、こんにちは。うちのお母ちゃんがね、今晩手羽先パーティーしよって。

Q覚おしょう:おおー、そりゃいいのぉ。みるちゃんのお母ちゃんは美人だし料理はうまいし。願ってもない。ぜひお願いします、ビールはこちらで冷やしておきます、って、伝えてもらえるかの。

みるちゃん:うん、わかった。じゃ、お母ちゃんに言ってくるね。 ところでおしょうさん、質問があるんだけど・・・ そもそも、手羽先って、何?

Q覚おしょう:おお、そりゃ大事なところじゃ。ずばり答えてもいいんじゃが・・・ どうじゃ、みるちゃん、解剖しながら観察すると、手羽先の秘密がよくわかるぞ。晩御飯までの時間で、むきむきしてみんか?

みるちゃん:むきむきするー! じゃあ一回帰ってくるね。それで一つ手羽先をもらってくるよ。

Q覚おしょう:うむ、気をつけてな。

みるちゃん: へへっ、2つもらってきちゃった。裏と表で、ずいぶん様子が違うんだね。ついでに、「手羽元」ってのもあったから、1つもらってきたよ。

Q覚おしょう: どれどれ、ちょっと見せてごらん。・・・お、こりゃうまい具合じゃ。ぜんぶ「右」じゃな。

みるちゃん: え?「右」ってどういうこと?

Q覚おしょう:ふふ。その前に、手羽先が何かってことを解決しようかの。よく見てごらん。とくに先っちょのところ。

みるちゃん:・・・なんかイボイボしてて、きもち悪いね・・・ あれっ?! こことここ、かぎ爪がある! 小さいけど、恐竜みたい! ・・・爪があるってことは、手羽先って、手?足?

Q覚おしょう:答えは、「手」なんじゃ。ニワトリのな。正確には、手と二の腕の部分なんじゃよ。

みるちゃん:えー、ニワトリに、手なんてないよ。羽があるんだもん。ニワトリは鳥なんもん。

Q覚おしょう:鳥の翼は、あの羽の中に、骨と筋肉で「芯」が通っておるんじゃ。その芯が、わしらでいう腕や手なんじゃよ。 ほれ、おとなりのさとしおじちゃんは、腕や手の甲に毛がモジャモジャしてるじゃろう。鳥の羽って、実はあの毛と同じようなものなんじゃ。空を飛ぶため、ずいぶん頑丈で複雑に進化しておるがの。

みるちゃん:でもでも、手羽先には羽なんか生えていないよ。

Q覚おしょう:一面にあるそのイボイボが、羽の生えてくる「毛穴」なんじゃよ。売ってる手羽先は、鳥肉屋さんがきれいに羽を抜いてくれてるんじゃ。羽は食べれないからの。

みるちゃん:ひえー!じゃあこれ、全面、毛穴?! で、これの、どこがどう「手」なの?

Q覚おしょう:真ん中の曲がり角のところが、手くびじゃ。それより先が手の甲と指、根元側が、わしらでいう二の腕じゃな。 わしらヒトの手首は主に「おいでおいで」の動きが得意じゃが、鳥は手首を横に振る「バイバイ」しかできないんじゃよ。

みるちゃん:「く」の字型は「バイバイ」なのか・・・

Q覚おしょう:ちなみに爪は2つしかないけれど、骨を見ると3本の指があって、その3本は、それぞれわしらの親指、人指し指、中指と同じものだと言われておるな。それで手でピストルのまねをして、構えているようなかっこうが、手羽先の形なんじゃ。

みるちゃん:うーん、もじゃもじゃピストルかぁ。なんか食欲なくなっちゃうなぁ。

Q覚おしょう:命をいただくとは、そういうことなんじゃ。

きくちゃん:ただいまー。

みるちゃん:あ、きくちゃん! おかえりー!

きくちゃん:ただいま。あー楽しかった。外国の人とたくさんお話ししたよ。ねじりまんぽってどういう意味かって聞かれちゃった。

みるちゃん:また適当なこと言ったんじゃないでしょうね。ま、お疲れ様。でもまだビールは我慢ね。今日は手羽先パーティーなんだよ。

きくちゃん:おー、いいねー! おしょう、あの銘柄、ちゃんと冷やしてる?

Q覚おしょう:まかせなさい。

きくちゃん:みるみる、はい、おみやげ。鳥の羽をひろってきたよ。好きでしょ、こういうの。

みるちゃん:わーい、ありがとう!

Q覚おしょう:お、こりゃいいものを拾ってきたの。手羽先に羽を並べて・・・っと、こんな羽が、「毛穴」から生えていたんじゃ。それにさっきの手羽元を並べると・・・ ほれ、羽が並んだ翼がイメージできるかの。手羽元と手羽先は、わしらでいう腕をひじのところで切り分けたものなんじゃ。

みるちゃん:あー、わかるわかる。そっかー、手羽先は翼の先っちょ、手羽元は根元の部分だったんだね。

Q覚おしょう:さっき、これが「右」って言ってたのも、わかったかな? イボイボが全面にあるほうが、羽がパシーッと生えそろった翼の上側の面ってことで・・・。

みるちゃん:なんで上の面だけ一面に羽があるの?

Q覚おしょう:おっと、みるちゃん、鋭いの。それは一皮むいてから考えよう。

Q覚おしょう:その前に、せっかく手羽元もあるから、これもちょっこし見てみようか。

きくちゃん:骨付きから揚げの部分だよね。手羽先もいいけど、こっちのじゅわっと肉厚な感じもいいよね。あー早く食べたーい!

みるちゃん:きくちゃんは、早くビール飲みたーい、でしょ。だめだよ、また飲みすぎちゃ。

Q覚おしょう:「肉厚」ってことは、一つ一つの筋肉が大きいってことじゃ。じっさい、手羽元には、裏表にひじの関節を曲げ伸ばしするための大きな筋肉がついておる。曲げるのは「上腕二頭筋」、いわゆる「力こぶ」の筋肉じゃな。伸ばすのは肩からひじに伸びる「上腕三頭筋」じゃ。

みるちゃん:にとうきん、さんとうきん、って、変な名前ね。頭がたくさんあるの?

Q覚おしょう:この場合の「頭」っちゅうのは、筋肉の付き始めの部分のことじゃ。二頭筋と三頭筋はそれぞれ2つと3つの筋肉がよせ合わさったようになっとるんじゃが、その数なんじゃな。上腕二頭筋の始まりは脇のところ、三頭筋は肩のあたりじゃ。両方の筋肉とも、もう一方の端はぐっと絞られて細くなっておる。それがひじの関節をまたいで手羽先側の骨の端っこに付くぞ。ほれその切られたところが見えておる。

みるちゃん:ふーん、こうやってつながっているのね。

Q覚おしょう:手羽元の、手羽先につながる切り口とは反対側を見てごらん。たくさんの筋肉がざっくりと切り口を見せておるじゃろう。これらはおおむね、肩の関節を動かす筋肉たちじゃ。 そして真ん中に、まあるく骨が顔を出しておる。これが肩の関節にはまり込む部分じゃな。 手羽元の芯になっておる大きな1本の骨、これを「上腕骨」という。その丸い関節の部分は上腕骨の「骨頭」というんじゃ。

みるちゃん:また「頭」!

きくちゃん:つるつるまあるい「ほねあたま」。まるでおしょうの頭だね。

Q覚おしょう:そうそう、ちょっといびつなところもな・・・って何を言わすんじゃ。

みるちゃん:肩を動かすって、鳥も腕をぐるぐるさせたりするの?

Q覚おしょう:鳥は翼を羽ばたかせるじゃろう。あれは肩関節を中心にした運動じゃ。

みるちゃん:そっかー。ざっくり切られちゃってちょっとみすぼらしいけれど、大事な筋肉たちなんだね。

Q覚おしょう:うむ。この状態ではどうしょうもないから、そのうちまた、丸鶏が手に入ったらむきむきするとしよう。でも2つだけ知っておいてもらいたい筋肉があるんじゃ。

みるちゃん:どれとどれ?

Q覚おしょう:その2つとは、「胸筋」と「烏口上筋」じゃ。胸筋は翼を打ち下ろすときの、烏口上筋は逆に引き上げるときの、主役の筋肉なんじゃ。空を飛ぶ鳥にとっては一番大事な2つの筋肉ともいえるな。

みるちゃん:うこうじょうきん! なにその名前。覚えなくちゃいけない?

Q覚おしょう:正しく言葉を覚えるのは大切なことじゃ。しかも別名もあるからもっと覚えることはあるぞ。烏口上筋は一般に「小胸筋」とも呼ばれるな。胸筋は大きな筋肉だから「大胸筋」じゃ。 ちなみに大胸筋は鶏の「胸肉」、小胸筋は「ささ身」という名前で売られておるぞ。

きくちゃん:あー、生姜醤油でささ身の湯引きなんてのもいいねぇ。

Q覚おしょう:ささ身も胸肉も、胸骨という大きな骨から始まるんじゃが、胸肉は皮膚のすぐ下に、ささ身はその奥に隠れるように位置しておる。おかげで、胸肉には皮膚や皮下脂肪がべったりついて脂のうまみたっぶりじゃ。一方ささ身には脂分はほとんどなくて、筋肉組織、つまりタンパク質の塊じゃ。1羽の鶏から、いろんな味が楽しめるんじゃな。

みるちゃん:で、その2つ、どれなの?

Q覚おしょう:胸筋は肩の前面、上腕二頭筋の上あたりにある、大きな切り口がそれじゃ。烏口上筋は、胸筋の骨頭を挟んだ反対地点に付着するぞ。胸筋よりずっと細くて、かたーい感じじゃ。

みるちゃん:あるよあるよ! 胸筋は太いね。こりゃ確かに大きそうだね。 烏口上筋は・・・ 太いスジっぽいのが出てるけど・・・

Q覚おしょう:その「スジ」で正解じゃ。烏口上筋は、胸骨のそばではまるっきり筋肉の「ささ身」なんじゃが、上腕骨に近くなると、かたい「腱」になる。同じような「スジ」でも、骨と骨を結ぶものは「靭帯」という。筋肉が骨につながるときのスジを「腱」というんじゃ。アキレス腱が有名じゃな。

みるちゃん:どうして烏口上筋は腱になっているの?

Q覚おしょう:よくぞ聞いてくれた。腱はかたくて、引っ張ってもほとんど伸び縮みしないんじゃ。じゃから、これを使えば、筋肉本体と動かしたい骨とを離して「遠隔操作」することができるんじゃ。あやつり人形の操り糸みたいなもんじゃな。

みるちゃん:なに言ってるか、よくわかんない。

Q覚おしょう:うむ。ま、このことはそのうちまたやろう。なんせ胸肉の本体が今はないからな。じゃ、手羽先をむきむきしようか。

みるちゃん:わーい、もじゃもじゃピストルのまな板ショー!

きくちゃん:は?!

Q覚おしょう:はじめに決めごとじゃ。今まで裏表と言っておった面を、それぞれ「腹側面」と「背側面」というぞ。自分の体に置き換えて考えるとわかりやすいな。

みるちゃん:なんか、かたくるしいね。裏・表か、上・下とかじゃダメなの?

Q覚おしょう:うむ、どっちが表で裏なのか、というのはその時々の基準で変わってしまうからの。それに上下も、動物の姿勢によってそれが指し示す部分が変わってしまって都合が悪いんじゃ。背中とお腹はどんな動物にもあるからの。それを基準にすれば、いろんな動物を比べるときに混乱しなくてよいんじゃ。

きくちゃん:せやな、ってね。

Q覚おしょう:まずはあらためて表面をじっくり見てみようか。毛穴だらけなわけなんじゃが、中でも一番後ろ、ヘリのところにはひときわ大きな、袋みたいなのが並んでおるじゃろう。これが翼のメイン、「風切羽」が生えるところじゃ。

きくちゃん:さっきの鳥の羽も、風切羽だったんだね。

みるちゃん:さっきの話の続き。どうして背側面にはびっしり羽が生えてるのに、腹側面はしょぼしょぼなの? ハゲたの? それともこれから生えるの?

Q覚おしょう: 確かに手羽先になっているのは若鶏じゃが、成鳥になってもそれほど変わらんよ。もちろん、若ハゲというわけではない。では表皮をはいでみておくれ。薄い上に脂っこいから注意してな。

みるちゃん:むきむき~!

みるちゃん:こんな感じかな。腹側面はほんとに薄い皮1枚だね。背側面はあぶらっこくて厚みがあったよ。

Q覚おしょう:けっこうけっこう。両面とも、手首から先端につながる薄い膜があるじゃろう。これを切らずに出すのは、なかなか難しいんじゃが、よくやったの。あぶらっこいのは、羽の栄養になるからじゃ。

きくちゃん:この膜、裏のも表のも、同じ骨に根っこがあるみたいね。

Q覚おしょう:いいところに気が付いた。その骨は橈骨という。2枚の膜は風切羽の根元を挟み込んで、羽ばたきの時、手くびが風圧で持っていかれないように、突っ張っているんじゃ。その根っこが別の骨では、ガタついて役に立たんだろうな。

みるちゃん:腹側面の筋肉はぷにぷにして「肉」!って感じだけど、背側面のはゴワゴワした薄皮をかぶっているみたい。風切り羽ともう2列の羽の根元も、ずいぶんしっかりした「鞘」があって、びっくり。

Q覚おしょう:そう。背側面はがっちりしておる。小さな羽が一面に覆っているのも同じ理由なんじゃが、これは、翼の上面を滑らかな凸面に保つためなんじゃ。

みるちゃん:どういうこと?

Q覚おしょう:上面が滑らかな凸面だからこそ、鳥が滑空するとき、翼が切り裂く空気は、翼の上面で早く、下面はそれより遅く流れる。早く流れる空気の流れは、周りの空気を吸い寄せるんじゃ。翼はそれで吸い上げられるように揚力を得て、飛び続けられるんじゃ。

みるちゃん:よくわかんないけど、うまくできているのね。 じゃ、もう1段階むきむき~

みるちゃん:ゴワゴワしたのを取っちゃって、全体をきれいにしたよ。風切羽の鞘も、きれっぱしがつながっているだけにしちゃった。背側面にはまたスリムな「突っ張り膜」が出てきたね。筋肉は、細ーいのが「まーだ続くか」ってくらいつながって、びっくり。

きくちゃん:なにこれ! 触手?!

Q覚おしょう:これこそ「腱」の神髄じゃな。

みるちゃん:ねぇ、こういう筋肉たち、みんな名前があるの?

Q覚おしょう:ある。驚くべきことに、解剖学者は、ちっこい筋肉や靭帯までほとんど名前を付けておるんじゃ。ラテン語でつけられた、世界共通の呼び名も決まっておるぞ。日本語の名称は、それを翻訳したものじゃ。

きくちゃん:ラテン語、私ちょっとわかるよ。古代ローマの言葉で、ヨーロッパの人たちにとっては、“古い田舎の言葉”みたいな感じなんだよね。

Q覚おしょう:うむ。万国共通の用語を作るのに、なにかと都合のいい言語なんじゃ。筋肉の名称には紛らわしいものが多いが、基本、その筋肉がある場所や、つないでいる骨の名前と、どんな機能があるかってことを組み合わせておる。一つずつ確認していけば、自然と身につくぞ。

Q覚おしょう:そういえば、ちょっと寄り道じゃ。 二の腕部分の腹側面で、風切羽の毛穴に沿ったところに、「尺側手根屈筋」というのがある。この筋は銀色の袋のような組織に包まれておるじゃろ。

みるちゃん:うん、袋の一部を切り取って、中の筋肉が見えるようにむきむきしてみたよ。

Q覚おしょう:この「袋」の一端は手くびの骨にしっかりくっついている。もう一端は手羽元との間で切られてしまっているが、元々は上腕骨の端にくっついているんじゃ。実はこれはな、上腕骨と手根骨を結ぶ長い靱帯なんじゃ。

きくちゃん:へぇ、靱帯って、こんなに長いのもあるの?!

Q覚おしょう:あるんじゃな。ふつう靱帯というのは隣り合った骨を結んでごく短いものなんじゃが、これは二の腕を通り過ぎておる。ちょっと他にはない「珍スジ」じゃな。名前を「上腕中手靱帯」という。

みるちゃん:これ、風切羽の付け根の「鞘」にくっついちゃってて、切り離せないんだよね・・。「鞘」は背側面ではぴらぴらだから切り開いてみた。でも、骨と鞘はつながっているみたい。

Q覚おしょう:実に良い観察じゃ。ここで風切羽の付け根になっている骨は「尺骨」という。風切羽というのは翼の形に直結したとても大切な羽じゃ。空を飛ぶときはグワッと広がって翼の面積を大きくする。一方翼をたたむと、なでつけたように、しおーっとコンパクトになってしまう。みるちゃんが気付いた「風切羽」・「上腕中手靱帯」・「尺骨」の関係に、その秘密がこめられておるぞ。

きくちゃん:ふむ、こういうことかな・・

みるちゃん:「浅回内筋」と、手前の筋肉をいくつかはずしてみた。隠れていた筋肉が見えてきたよ。

Q覚おしょう:うまいぞ。筋肉の立体的なイメージがつかめると、その筋肉にどんな機能があるか、つまり、その筋肉が収縮したとき、どの関節でどの骨がどっちの方向に動くのかが見えてくるじゃろう。「上腕手根靭帯」と風切り羽の鞘との関係も、よく見えるな。

Q覚おしょう:そうそう、機能はさておいて、一つ豆知識じゃよ。ここで見えている「内上顆尺骨筋」はちょっと珍しい筋肉なんじゃ。

きくちゃん:珍筋? そそられるわね。

Q覚おしょう:「内上顆尺骨筋」はニワトリではこの通り立派な筋肉じゃが、ほとんどの鳥はこの筋肉がないんじゃ。あるのは、ニワトリ含めキジ目の各種と、一部のカモ目、それにニュージーランドの飛べない鳥「キーウィー」、南米の珍しい鳥シギダチョウ目の鳥と、限られた種類だけなんじゃ。

きくちゃん:シギダチョウって、頭骨は原始的なのに、同じタイプの頭骨をしたダチョウやキーウィーと違って、空を飛べる、変わった鳥なんだよね。

Q覚おしょう:そう。この筋肉を持つニワトリって、鳥の中ではけっこう原始的な種なんじゃよ。その他の比較的進化した鳥にこの筋肉がないのは、退化して消えちゃった、ってことなんじゃ。筋肉一つでも、進化を物語っておるわけじゃ。

みるちゃん:ちんきん、取っちゃったよ。みるのお気に入りは、この2つ。

Q覚おしょう:「腹側尺中手筋」と「大指長伸筋」じゃな。両方とも最初から顔は出しておるんじゃが、最深部まできてようやく全貌がみえたな。

みるちゃん:「腹側尺中手筋」はおもしろいね。筋肉本体は腹側面にあるのに、腱が手くびに巻き付く感じで、最終的に背側面にくっつくよ。

きくちゃん:これだと、手の平の親指側のヘリを腹側に下げ、小指側のヘリを背側に上げるように、手くびをひねるように動かすことになるね。最初にはずした「回内筋」と通じるものがあるね。回内筋が動かすのはひじの関節だけど。

Q覚おしょう:総じて水泳のバタフライみたいな動きを、鳥は羽ばたきの中でしておるんじゃな。

Q覚おしょう:「大指長伸筋」も面白いぞ。先端まで腱が伸びる筋肉はほかのもそうなんじゃが、ところどころに、靭帯の「トンネル」をくぐるところがあるじゃろ。このトンネルは、腱が横ずれしないようにするだけじゃなく、トンネルと終末付着点の間の関節を適度にそり上げるように作用をするんじゃ。

みるちゃん:まーた何言ってるかわかんない。それより、骨間筋っていうのね、この窓枠にはまったような筋肉、2枚あるんだよ、背側面と腹側面で、最初に見えてたのは違う筋肉なんだよ。すごくない?

きくちゃん:トンネル・・・。私、おしょうの言うこと、なんだかわかった気がする。

きくちゃん:「トンネル」の話だけどさ。こんな感じかなって思ったけど、おしょうさん教えてくれる?

Q覚おしょう:おっ、どれどれ?

きくちゃん:触手みたいな腱があるのは他にもあるけど、とりあえず「大指長伸筋」で考えるね。

きくちゃん:背側面では大指長伸筋のほかに背側・腹側の骨間筋、腹側では指屈筋の腱が大指末節骨に停止するね。四方から引っ張られて、指先がくねくね動くのね。

Q覚おしょう:微妙に、じゃがな。大指末節骨には、いちばん外側の風切り羽ががっちりついておる。これをちょいちょいとコントロールするんじゃろうな。わしらには見えないぐらいの微妙な動きでも、風を切る鳥たちには大事なしかけなんじゃ。

きくちゃん:先端のために「根元」が頑張る。仕組みすべてに意味がある。すごいね、これ。

みるちゃん:もう筋肉ないね。

Q覚おしょう:見事見事。骨と靭帯だけになったな。こうしてじっくりむきむきすると、骨の見え方が変わったと思わんか? ほれ、そこに、筋肉が見えるような気がするじゃろう。

きくちゃん:うん。骨って、それだけでもきれいだなって思うけど、筋肉のことを知ると、形には意味があるんだなって実感するね。

みるちゃん:あー、ずーっと肉見てたら、お腹すいたね。

みるのお母ちゃん:こんばんはー。ハーイ、できたよー。お待たせしました。

みるちゃん:わーい、あれ、お父ちゃんは?

みるのお母ちゃん:お父ちゃん、またどっか行っちゃった。せっかく作ったのに。

Q覚おしょう:ははは。みるのお父ちゃんはちょっと変わっとるからの。おおかた、いつもの海岸にイルカの死体でも拾いに行ったんじゃろ。

みるちゃん:イルカの死体、臭いから嫌い。

みるのお母ちゃん:もうくさい人のことはいいから。食べましょ食べましょ。

みるちゃん: 父ちゃんが拾ってくるものが臭いって言ったの。結局お父ちゃんもくさいんだけど・・・、お父ちゃんのことは好き。

きくちゃん:はいはい、ビール冷えてますよー。みるちゃんはジュースね。

Q覚おしょう:おっと、その前に、むきむきした後はしっかり手を洗うんじゃ。

みんな:かんぱーい。いただきまーす。

みるちゃん:(むしゃむしゃ・・・)ところでおしょう、お堂の名前の「最先端」って、どういう意味なの?

Q覚おしょう:最先端は、最先端。読んで字のごとくじゃ。(むしゃむしゃ)

みるちゃん:こんなボロで古い標本があるだけの小さなお堂にしちゃ、ちょっと大げさな名前じゃない?(むしゃむしゃ)

Q覚おしょう:最先端は「とんがったところ」じゃ。誰にだって、個性ってあるじゃろう。それが「とんがり」。そして一人の人間にしても、今日は昨日までと違う何か新しい自分が生まれることがある。それも「とんがり」。考えてみれば、世の中みんな「とんがり」の集まりじゃ。今日みるちゃんがむきむきしたこの手羽先のスケッチだって、結構とんがっておるぞ。こんな細密な観察、ダビンチだってしとらんからの。(むしゃむしゃ)

きくちゃん:ダビンチとはデカく出たわね。(むしゃむしゃ)

Q覚おしょう:何百年もほったらかしにされてるけど、知れば面白いことって、いくらでもあるんじゃ。そんな小さな「とんがり」を大切にしようってことじゃ。(むしゃむしゃ)

きくちゃん:なんか言い訳がましいわね。(むしゃむしゃ)

Q覚おしょう:でかくても小さくても、とんがりはとんがり。気は持ちよう。言ったもん勝ちじゃ。小さなとんがりが集まって、大きくなることもあるしな。(むしゃむしゃ)

みるちゃん:どうでもいいや。おかあちゃーん、おかわりー。

みるのお母ちゃん:自分で取ってらっしゃい。(むしゃむしゃ)

                                                           おしまい

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