京都大学 大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻、理学部 地球惑星科学系

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重力加速度は9.8じゃない!?

風間卓仁(地球物理学教室・助教)

はじめに

地球の重力加速度(重力)は 9.8 m/s2 である、と高校物理の授業で学びます。 加速度の単位 Gal (= cm/s2 = 10-2 m/s2) を用いて、980 Gal と習った人もいるかもしれません。

しかし、重力は地球表面のあらゆる場所でちょうど 9.8 m/s2 になっているわけではなく、実は場所ごとに異なる値となります。 また、重力はある1地点においても、様々な理由によって時間的に変化します。 このような重力の空間的な違い、および時間的な変化を観察することによって、さまざまな地球物理学的な現象を観察することもできます。

そこで今回は、重力加速度(重力)の基礎に触れながら、重力測定によって明らかになってきた地球表層の物理現象について紹介します。

そもそも重力とは?

そもそも重力は、「地球質量が物体に及ぼす万有引力」と「地球回転に伴う遠心力」のベクトル和です。 この万有引力と遠心力には、以下のような特徴があります(図1-1)。

  1. 地球形状がわずかに扁平であるため、地球重心から地表面までの距離は極で近く、赤道で遠くなっている。 この影響で、万有引力は極で大きく、赤道で小さくなる。
  2. 遠心力は自転軸から遠いほど大きくなる。すなわち、遠心力は極でゼロで、赤道で最も大きくなる。

図1-1: 万有引力・遠心力・重力の関係。

その結果、重力は極で大きく、赤道で小さくなります。 図1-2は地球表面における標準的な重力の大きさ(正規重力)を示したグラフで、赤道では 978.0 Gal, 北極・南極では 983.2 Gal となります。 この重力差は、赤道にいる重さ 100.0 kgw の人が極では約 100.3 kgw になる、ということを意味しています。


図1-2: 地球表面の各緯度における標準的な重力の大きさ(正規重力)。

重力は質量の積分値である

今度は重力の万有引力項に注目します。 地球を1つの物体として考えた場合、重力の万有引力項は G M / R2 と書けます(図2)。 ここで、G は万有引力定数、M は地球質量、R は地球の平均的な半径を意味しています。 この式は高校物理の範囲で覚えている人も多いと思います。


図2: 重力の万有引力項に関する模式図。

ここで、地球を微小質量の集合体と考えると、重力は個々の微小質量がもたらす万有引力の総和として書けます。 ただし、微小質量の万有引力のうち鉛直成分のみが重力に寄与するので、上記の式では万有引力項 G mi / ri2 に zi / ri を掛け合わせています。 すなわちこの式は、重力(の万有引力部分)は質量分布の積分値として表現できる、ということを意味しています。

重力は場所ごとに異なる

先ほどの例(図2)において、重力観測者の直下の微小質量 mi が他よりも大きい状況を考えてみます。 この場合、この微小質量が重力観測者にもたらす万有引力はわずかに大きくなり、その結果この重力観測者が感じる重力(万有引力の総和)も大きくなります。


図3: 世界のブーゲー重力異常。 4次元デジタル地球儀 ダジック・アース より。

実際の地球内部でも密度の大きい場所や小さい場所があり、それに伴って地表面の重力値は場所ごとに異なっています。 図3は地球上で観測された重力値から様々な影響(緯度・観測点標高・地形の寄与など)を差し引いて得られた重力の空間分布で、ブーゲー重力異常図と呼ばれます。 この重力異常図から、例えば以下のようなことが読み取れます。

  1. 海域のブーゲー重力異常は陸域よりも大きく、これは海洋プレートの密度が大陸プレートよりも大きいことを反映している。
  2. 大陸中でも重力異常の強弱があり、例えばチベット高原では強い負の重力異常が存在する。 これは地殻密度がマントル密度よりも小さく、かつこの地域の地殻の厚さが他地域よりも厚い(60 km 程度)ためである。

重力は時間的に変化する

実際の地球上では、さまざまな物理現象に伴って質量が移動することも考えられます。 例えば図2において、重力観測者の直下の微小質量が遠方に移動した場合、この微小質量の万有引力効果は小さくなり、その結果重力観測者の感じる重力は弱くなるはずです。 つまりこのことは、質量分布が時間的に変化すると各地点の重力値も時間的に変化する、ということを意味しています。


図4-1: 大気圧変化と重力変化。

一例として大気圧変化に伴う重力変化を考えてみます。 高気圧が来ると地表の気圧値は高くなりますが、これは上空の空気の層が厚くなる、すなわち空気の質量が増加することを意味します。 空気質量は地表よりも上にあるので、地表にいる人は上向きの万有引力をより強く感じるはずです。 これは重力(鉛直下向きが正)を弱める向きですので、高気圧が来ると重力が小さくなるというわけです。 実際には 1 hPa の気圧変化に伴って -0.3 micro-Gal (= -0.3 × 10-8 m/s2) 程度重力変化することが知られており、気圧変化が大きい場合には精密な重力計で検知できるほどになります。


図4-2: 潮汐力に伴う重力時間変化。

また、外部天体との位置関係の変化によって、地球には潮汐力(起潮力とも)という力も加わります。 図4-2は京都大学理学部1号館の地下で満月の日(2021年4月27日)に観測された重力時間変化です。 月が地球の周りを公転している影響で、半日周期の潮汐変動が観測されています。 潮汐変動の大きさは各緯度によって異なりますが、京都の場合peak-to-peakで 300 micro-Gal を超えることもあります。

重力を正確に測るには?

ボールの放物運動やブランコの動きなど、物体の運動は重力によって支配されています。 そのため、物体の運動の様子を観察することで重力値を決定することができます。


図5-1: 現場測定用の重力計。

地球物理学および測地学の分野では現在、絶対重力計・相対重力計・超伝導重力計などの重力計によって重力値の現場測定が行われています(図5-1)。 絶対重力計は自由落下方式を採用していて、重力の絶対値を測定することができます。 相対重力計は内部にバネを有した小型の重力計で、可搬性に優れています。 超伝導重力計は超伝導球の上下変位を観察することで、重力の時間変化を連続的に測定できます。 各重力計では重力値の8桁目(≒ 10 micro-Gal)を超えるような精度・確度で重力値を測定することができます。 特に超伝導重力計に至っては、重力値の11桁目~12桁目(≒ 1~10 nano-Gal)まで測定できるとされています。


図5-2: 重力観測衛星GRACE(想像図:NASA)による重力観測の仕組み。

また、重力観測は人工衛星を用いて行われています。 例えば、双子衛星 GRACE は2機間の距離を測定しながら極軌道で地球を周回しています(図5-2)。 2機間の距離は直下の密度に依存して変化するので、2機間の距離のデータから地球上の重力分布を推定することができます。 このような観測を繰り返すことによって、重力の時空間変化を約1ヶ月間隔で面的に知ることができます。 観測精度は解析方法や質量変動の空間スケールにもよりますが、8桁目(≒ 10 micro-Gal)よりも小さな重力変化を見ることもできます。

火山活動に伴う重力変化

火山で重力を観測すると、マグマの動きが捉えられることがあります。 例えば2004年の浅間山噴火時には、火口東約4 kmの観測所にて 5 micro-Gal (= 5 × 10-8 m/s2) の重力変化が観測されました。 この重力変化をより詳しく調べると、噴火直前や噴火時に重力値が低下傾向であることが分かりました。 これはマグマが火道(パイプ状の空洞)を上昇し、その最上部が重力計の標高(約1400 m)を超えることで、重力計に上向き万有引力が働いたためと考えられます。


図6-1: 浅間火山(左)と2004年噴火噴火時の重力変化(右)。
衛星画像はGoogle Earth、図はKazama et al. (2015)より。

鹿児島県の桜島火山では、1975年以降複数の水準点において相対重力計による重力測定が定期的に行われてきました。 以下のグラフは、西麓のS16を基準としたハルタ山の上下変位(横軸)と重力変化(縦軸)です。 1970年代~1980年代の桜島は南岳からの噴火が活発だった時期ですが、当時の重力変化は非常に大きかったということが分かります。 また、この重力変化は地殻変動で予想される重力変化(グラフ内のFやBの線)よりも数倍大きく、桜島直下でマグマ質量の増加が起きていたものと考えられます。


図6-2: 桜島火山(左)のハルタ山観測点における上下変位および重力変化(右)。
衛星画像はGoogle Earth、図は石原ほか (1988)より。

桜島の重力増加は現在も継続していますが、その速度は南岳噴火活発期(1970年代~1990年代前半)よりも小さくなっています(風間ほか, 2020)。 これは単純に考えれば、桜島直下の質量増加速度が活発期より低下したと解釈できます。 しかし近年の研究成果によると、相対重力計の検定不足により偽の重力変化が見えてしまうことが指摘されており(Onizawa, 2019)、今後桜島の重力観測データからこの影響を確実に補正することが重要です。

氷河融解に伴う重力変化

氷河地域やその周辺でも大きな重力変化が観測されることがあります。 例えばアラスカ南東部では、絶対重力計を用いた定期的な重力測定により、年間 3 micro-Gal (= 3 × 10-8 m/s2) 前後の重力減少が各地で観測されています(Sun et al., 2010)。 この地域は17世紀~19世紀の小氷期に厚い氷河で覆われていましたが、19世紀以降にその多くが融解しました。 アラスカ南東部における現代の重力減少は、過去の氷河融解に伴って地盤が時間遅れで隆起し(氷河性地殻均衡と呼ばれる)、重力観測点が地球重心から遠ざかっていることを反映しています(Naganawa et al., 2022)。 また、この地域では現代においても氷河融解が継続しており、重力観測によって現代の氷河融解量を正確に推定できるものと期待されています。


図7-1: アラスカ南東部における経年的な重力変化 (Naganawa et al., 2022)。
地図上のコンターは地表上下変位 (Larsen et al., 2005)。

人工衛星GRACEにおいても、現代氷河の融解減少が重力変化として観測されています。 下図は南極上空で観測された重力変化で、西南極で重力が減少しているのが分かります(赤色部分)。 これは主に海洋の温暖化に伴い、南極大陸沿岸の棚氷が底面から溶解しているためと考えられます。 GRACEデータを用いた解析によると、南極全体の氷河融解速度は年間約1000億トンと見積もられています(Velicogna et al., 2020)。 ただし、人工衛星の重力データには上述の氷河性地殻均衡の影響も含まれますので、この寄与を適切に補正することが不可欠です。 また、GRACEでは地上の小さな空間スケールの質量変動は検出できないので、地上で重力や地殻変動の観測を行うことも重要です(Kazama et al., 2013)。


図7-2: 人工衛星GRACEで観測された南極大陸の重力変化(ダジック・アース より)。

水質量が邪魔をする!?

人工衛星GRACEは陸水変動(地下水貯留や河川水流出)に伴う重力変化も検出でき、陸水貯留量の監視にも活用されています。 上述の ダジック・アースの動画 を見ると、アマゾン川流域・東南アジア・アフリカ中央部~南部で年周的な重力変化が観察できます。 これは降水量の季節変化に伴って各地の陸水貯留量が年周的に増減しているためです。 また、重力の年周変動を差し引くと渇水や地下水汲み上げに伴う局所的な重力減少も観察でき、例えばインド北部では人間活動によって年間540億トンの水質量が失われていると推計されています(Chen et al., 2016)。


図8: 陸水流動モデルによって再現された浅間山の重力変化 (Kazama et al., 2015)。

一方で、火山活動に伴う重力変化を火山近傍で捉えようとする場合、陸水変動の重力変化が「ノイズ」になることがあります。 実際2004年浅間山噴火の際には、度重なる台風の襲来によって9月~10月の2ヶ月間で500 mmを超える雨が降り、重力観測点では 25 micro-Gal を超える重力増加が観測されました(図8グラフの灰色丸印)。 これは大量の降水が地表に浸透し、土壌水として土壌内に保持されたためです。 また、降水後には重力は緩やかに減少しており、これは土壌水が地下浸透や蒸発散によって重力点から遠ざかることを反映しています。

一般に陸水流動起源の重力変化は非線形的な応答を示すため、その補正は非常に難しいとされてきました。 しかし、近年では土壌水や地下水の流れをシミュレートし、陸水の時空間分布から重力変化を求めることができるようになってきました。 浅間山の事例では、陸水シミュレーションによって陸水起源の重力変化を再現し(図8グラフの赤線)、重力観測値から計算値を差し引くことで火山活動に伴う約 5 micro-Gal の重力シグナルを抽出することに成功しています(図6-1; Kazama et al., 2015)。

まとめ

このように、地球表面の重力加速度(重力)はちょうど 9.8 m/s2 = 980 Gal というわけではなく、重力計を用いて8桁以上(10 micro-Gal 未満)の精度で重力値を測定することができます。 重力は場所ごとに異なる値を持っており、重力の空間的な違いを調べることで地下の密度構造を知ることができます。 また、重力は時間的にも変化し、潮汐変動・地震火山活動・氷河融解・陸水変動など、地球表層における様々な物理現象を把握することができます。


図9: 地球重力の絶対値と時空間変化。

現在は既存の重力計の欠点を克服するため、新たな重力計の開発が盛んに進められています。 例えば、これまで屋内でしか測定できなかった絶対重力計が小型化され、屋外で絶対重力を直接測定できるようになりつつあります(新谷, 2010)。 また、量子力学の技術を応用して冷却原子重力計という絶対重力計が開発され(Bidel et al., 2013)、絶対重力値の連続観測も可能になっています。

このような技術が広く浸透すれば、重力の時空間分布をより高分解能に、かつ高精度・高確度で測定できるようになり、地球物理学的な諸現象の解明にも大いに役立つものと期待されます。 例えば、活動的火山の周辺の複数点で重力観測を連続的に行い、マグマの上昇位置をリアルタイムに把握することで、火山噴火を高精度に予測することが近い将来実現するかもしれません。

参考文献

重力観測や測地学に関する概説は以下をご覧ください。

  • 大久保 (2004): 地球が丸いってほんとうですか? 測地学者に50の質問. 朝日新聞出版, 朝日選書, 752, 277 pp.
  • 日本測地学会 (2004): Webテキスト測地学.
  • 風間 (2019): 日本の火山地域における重力観測の現状と陸水擾乱問題. 火山, 64, 189-212.

この記事内で引用した論文は以下の通りです。

  • Kazama et al. (2015): Absolute gravity change associated with magma mass movement in the conduit of Asama Volcano (Central Japan), revealed by physical modeling of hydrological gravity disturbances. J. Geophys. Res. (Solid Earth), 120, 1263-1287.
  • 石原ほか (1988): 桜島および鹿児島湾周辺における重力の精密測定. 第6回桜島火山の集中総合観測報告書, 7, 47-54.
  • 風間ほか (2020): 桜島火山における繰り返し相対重力測定 (2019年5月~2020年3月). 京都大学防災研究所年報, 63B, 108-117.
  • Onizawa (2020): Apparent calibration shift of the Scintrex CG-5 gravimeter caused by reading-dependent scale factor and instrumental drift. J. Geod., 93, 1335-1345.
  • Sun et al. (2010): Gravity measurements in southeastern Alaska reveal negative gravity rate of change caused by glacial isostatic adjustment. J. Geophys. Res. (Solid Earth), 115, B12406.
  • Naganawa et al. (2022): Updated absolute gravity rate of change associated with glacial isostatic adjustment in Southeast Alaska and its utilization for rheological parameter estimation. Earth Planets Space, 74, 116.
  • Larsen et al. (2005): Rapid viscoelastic uplift in southeast Alaska caused by post-Little Ice Age glacial retreat. Earth Planet. Sci. Lett., 237, 548-560.
  • Velicogna et al. (2020): Continuity of Ice Sheet Mass Loss in Greenland and Antarctica From the GRACE and GRACE Follow‐On Missions. Geophys. Res. Lett., 47, e2020GL087291.
  • Kazama et al. (2013): Gravity measurements with a portable absolute gravimeter A10 in Syowa Station and Langhovde, East Antarctica. Polar Sci., 7, 260-277.
  • Chen et al. (2016): Groundwater storage changes: present status from GRACE observations. Surv. Geophys., 37, 397-417.
  • 新谷 (2010): レーザー干渉法の精密測地観測への応用. 測地学会誌, 56, 1-12.
  • Bidel (2013): Compact cold atom gravimeter for field applications. Appl. Phys. Lett., 102, 144107.

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